食品、家電製品、衣料品など、ありとあらゆる業界で「安売り競争」が激化し、デフレ傾向が強まっている。デフレは、企業の利益を圧迫し、ひいては世帯の収益源、さらなる消費の低迷へとつながる悪循環の根源とされる。つまり、このままデフレが進行すれば、国内経済はますます壊滅的な状況に追い込まれ、最悪の場合「デフレスパイラル」を誘発しかねない。しかし一方で、低価格路線に頼らないヒット商品だって決して少なくない。企業が価格競争に陥らずに成長戦略を描くことはできるのか? 直近の成功事例から、「デフレに対抗するヒント」を紐解いてみよう。(取材・文/友清 哲)

不況、デフレの二重苦時代こそ
消費者を納得させるアイデアが必要

テレビや雑誌でトヨタ『プリウス』との比較検証が特集される機会も多い、ホンダ『インサイト』。後発ながらプリウスに並ぶ人気を誇る。

 2010年は小売業界にとって、一層厳しい競争を強いられる1年となりそうだ。かねてからのデフレ基調に加え、年度末には「二番底」を伴う経済危機さえ噂されており、商況の行く先を一層霞がかったものにしている。

 そんななか、消費者の感覚は大きく変容しつつある。今回の不況は、消費者に改めて“ムダ”の解消、家計の効率化を学ばせた感が強い。消費者が「1円でも安い商品へ」となだれ込んでいるため、今や食品、家電製品、衣料品など、あらゆる業界で「価格破壊」が進行しているのだ。

 カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング、家具のニトリ、大手スーパーの西友などは、こういった消費者のニーズに応えて格安商品を大量販売する象徴的な企業だ。彼らの多くは直近で堅調に売り上げを伸ばしている。

 だが、体力のある大手はよいが、大手に対抗するために止むなく低価格戦略に身を投じる中小企業も少なくない。今後、そういった企業が増え続けて利益が圧迫されれば、業界全体が地盤沈下を起こす可能性も否定できないだろう。今回のデフレが「ユニクロ不況」と揶揄されることも、そういった懸念によるものだ。

 企業の収益減は、業界の疲弊だけに留まらない。それは世帯の収益源につながり、さらなる消費の低迷を引き起こして、経済全体のサイクルまで悪化させてしまいかねない。「デフレスパイラル」の到来が、いよいよ現実味を帯び始めているのだ。