意思決定をする人は、忙しいです。忙しい方こそ、時間の大切さを知っています。そして、何回も会うことは叶わないかもしれません。そんなとき、1回で話を決めるには、どうすればいいでしょうか。2つの事例から「あなただから買いたい」と言われる理由が見えてきます。
7月17日発売『セールスは1分で決まる!』連載第11回。
1回のチャンスを1回で決める
ある外資系大手企業との商談が進み、契約まであと少しというところまで来ました。
「最高責任者の2人に挨拶に来てほしい」という連絡があり、先方に向かいました。
担当者から「2人が同時にスケジュールが空くのは5分だけです。5分で挨拶をしてください」と言われました。
「えっ? たった5分?」と内心思いましたが、忙しい経営陣のお2人です。時間が取れないのは仕方ありません。
しかし、5分で伝えることはまず不可能です。偉い人ほど時間の大切さを知っています。聞く内容に値しない場合、私に与えられるのは5分しかないという感覚で臨みました。
高層ビルの最高責任者の部屋に入った私は、「うわ~~、すごくきれいなお部屋ですね。それに最高の眺めですね」と広い窓から外を見渡し、思わず大きな声で言ってしまいました。
私の第一声に、一瞬拍子抜けしたお2人は、少し笑って「良かったら、どうぞお座りください」とソファに促してくれました。
「このソファもすてきですね〜。ふかふかですね!」と大喜びで座りました。
「おいしいコーヒーでもいかがですか?」
「はい、ありがとうございます。コーヒー大好きです」
担当者は、時計を見ながらけげんそうな顔をしましたが、トップのお2人もソファに座ったので、コーヒーを手配してくれました。
「このたびは、スタッフの皆さんが弊社の商品を気に入ってくださって、大変うれしく思います」と切り出し、男性のお2人に化粧品の話をしてもあまり分からないと思ったので、「弊社の商品に換えると、30代の層のお客様が増えます」「他のブランドにはない特徴のあるトリートメントがあるんですよ」「今日お土産に商品をお持ちしましたので、奥様にもぜひお試しいただきたいです」という話をしました。
経営陣であるトップ2人にとって最も大切なことは、「お客様に喜んでいただくこと」「業績を上げること」です。
これまでのブランドから弊社のブランドに換えることで、どんなお客様が増えるのか、どんなメリットがあるのかを話していきます。
それまで使っていたブランドの不満点を現場のスタッフから聞いていた私は、仕事がどうスムーズになるのか、どう良くなるのかという話をしました。
お2人はとても興味深く話を聞いてくれました。
「トラブルはこれまでありませんが、万が一問題が起きた場合、弊社でできる限り対処します。私は化粧品業界に長くいますので、ご安心ください」
さらに、経営者として気になるトラブル対応についても話しました。変化時には、必ずトラブルがつきものです。なかったとしても、不安があります。そこに対してのケアを忘れてはいけません。
堅苦しい話だけではなく、OL時代に実際に私が経験したトラブル対応の話などを楽しく話しました。
他社のトラブル対応は、経営者にとって興味深い話だったようです。
ここでも、普段のお客様と同様に、売りつけることを目的としませんでした。後日、お手紙をいただき、契約にいたりました。
以前も同じようなことがありました。
「正午から1時間だけ先方の社長がお時間取れます」と言われて紹介者と共に先方の会社にお邪魔したのです。
このときは、最初にご挨拶した際、先方の社長が「今後、エステサロンビジネスを展開したいと考えている」とおっしゃったので、私は化粧品業界のビジネスの話をしたのです。
「私は化粧品業界に20年以上いますし、エステサロン専用ブランドを扱っているので、いろいろな情報を持っていますよ」
先方の社長にとっては、これからビジネスをしようと考えているわけですから、とても興味を持って聞いてくれます。
結局私は、正午から夕方5時までずっとお話ししてしまいました。
外がうす暗くなった頃、「すみません。私お昼ご飯食べてないので、空腹で血糖値が下がり倒れそうですので帰ります」と言って先方を出たくらいです。
「今日は、いろいろな話が聞けて本当に勉強になりました。楽しかったです。本当にありがとう」と喜んでいただきました。
私としては、一緒にビジネスをしたいと思っていたわけでもなく、私の知っている業界のことだから、お役に立てればという気持ちでいろいろな話をしたのですが、その後その社長から、私とビジネスをしたいとご連絡をいただき、現在お取引させていただいています。
とはいえ、前者の企業のトップとは、あれ以来会っていません。後者の企業でも1年近くお会いすることはありませんでした。
1回のチャンスを1回で決める。
意思決定者と話すときは、何が何でも次の約束を飛ばす勢いで話をする必要があります。
時間を延ばすことと、契約が決まることは比例関係であるといっても過言ではありません。
相手は忙しい方々で時間の大切さを知っています。
ただ単に面白い話をしてもムダ話は聞いてくれません。
「相手がもっと聞きたい!」と思う話をするのです。相手が他の予定より優先させたいと思う、相手のためになる話題をしなければいけませ
ん。
それには、「相手が何を求めているのか」を素早くキャッチすることです。
5分を1時間、1時間を5時間に延ばしたことで、相手に喜んでいただけたうえに、「一緒にビジネスをしたい」という「信頼」を得ることもできたのです。
POINT
相手が何を求めているかを素早くキャッチし、
「お客様が喜ぶこと」と「業績を上げること」の軸に沿う話を
前のめりで進んで話していきましょう。