安倍政権が終わってもアベノミクスは終わらない
藤野 金融行政がどうしてこれだけ大転換してきたのかというと、それは1000兆円近くに上る国債残高への危機感でしょう。今後少しでも金利が上昇すれば、国債の利払いが増え、財政がひっ迫し、プライマリーバランスが崩れる。そして、国が破たんするということになる。こうした危機感を背景にして、今官僚の人たちは改革に舵を切り始めたのだと思います。
401K(確定拠出年金)制度の拡充、NISA導入、GPIFや公務員共済・簡保の株の組み入れ比率のアップ、それに今回のコーポレートガバナンス・コード等……このような投資に関しての政策が矢継ぎ早に打ち出されているのも、ここで一気に企業の資本効率を促し、個人資産を貯蓄から投資に促すことで経済を活性化させ、1000兆円という債務問題を解決していくしかない、という金融庁や厚労省や経産省の人たちの危機感によるものだと見ているのですが、どう思われますか。
村上 おっしゃる通りだと思います。私が聞いているところでは、10年前にも省庁内では英国版のスチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードをどう日本に導入して定着させるかという議論はあったということですが、その時には環境的にそうした考えを実現するのはかなり困難だったということです。
その頃官庁でそのような議論をしていた優秀な官僚の人たちは、ちょうど今現役で事務次官などの要職につかれています。
その方々が、日本経済の状況が悪化していく様子を見ながら、なんとかしなければならないと思っていた。そこに安倍さんという経済政策に熱心な総理大臣が出てきて、一緒に一連の改革をされたと。その中でコーポレートガバナンス・コードなども出て来たということだと思います。
藤野 万が一、安倍政権が終わってしまったらアベノミクスも終わるのではないかと懸念する声も一部ではありますが、その点僕はすごく楽観的です。なぜならアベノミクスは官庁と政権の一体化した危機感により推進されているものなので、もし首相が変わっても次の人がそれをやらざるを得ないと思うからです。
経済活性化しようにも財政的にはもう限界が来ていて、資金的に活用できるのは国民の金融資産のうち現預金として眠っている880兆円か企業の内部留保のうち余分に貯められている200兆円しかないという事情があるので、政権が変ってもこれらを活性化するという官庁の合意形成は変わらないのではないかと思います。