コーポレートガバナンス革命で絶好の投資環境が整う
藤野 今度出した本では、昨年から今年にかけて発表された「伊藤レポート」、「スチュワードシップ・コード」、「コーポレートガバナンス・コード」という、アベノミクスの「新三本の矢」について解説しています。それらは今後の日本の経済と株式市場を大きく方向づけるものであり、投資家もビジネスマンも必読だと思うからです。
日本経済は今なお様々な問題を抱えていますが、その大きな原因は上場企業のコーポレートガバナンスにあります。特に経営者が保身のために経営資源を無駄遣いし、資金を死蔵させ、そのことによって優秀な人材が埋もれてしまったり、外資の企業に流出しているという点が問題です。
それによって景気や株価の低迷が続き、それが国の財政や年金など社会保障の危機にもつながってきました。そうした日本経済の元凶といえるコーポーレートガバナンスの問題にずばり切り込んだのが、上場企業の行動規範として今年導入された「コーポレートガバナンス・コード」(2015年6月1日施行)です。
そして、上場企業の監視役としての役割を果たすべき機関投資家の行動規範を定めたものが「スチュワードシップ・コード」(編集部注:正式名称は2014年2月27日付で金融庁より公表された『「責任ある機関投資家」の諸原則』。受け入れを表明した機関投資家の数は6月現在で191社に及ぶ)です。
年金や生命保険などの機関投資家は大株主として投資先企業をきちんと監視して、その会社が合理的でない行動をとろうとしている時にはきちんとNOを突き付けないといけない。そのような本来の役割を放棄している機関投資家にきちんと本来の役割を果たしなさいと言っているのです。
2つとも、規則ではないですがそれなりに強制力もあり、企業側も、機関投資家もやっと動き始めた実感があります。
「伊藤レポート」が登場した衝撃
藤野 さらに、この2つのガイドラインを肉付けするバイブル的なものが「伊藤レポート」です。伊藤レポートというのは、経済産業省が音頭を取り、一橋大学大学院商学研究科教授だった伊藤邦雄氏を中心として取りまとめられたレポートのことです。
正式名称は『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』というもので、中心となった伊藤氏の名前を取って「伊藤レポート」と呼ばれています。日本企業が今後成長していくにはどんなことが必要なのか、という処方箋が書かれているんです。
もう僕はこのレポートを読んで本当に驚きました。僕が常々思っていたこと、そして、ことあるごとに言ってきた問題点と処方箋が書かれていたからです。こんなに実情に合ったレポートを読める日がくるとは、とまさに衝撃でした。
村上 その衝撃があって、本を出されたんですね(笑)。
藤野 はい。これは企業や機関投資家だけではなく、個人投資家も知っておくべき内容だと思ったからです。
伊藤レポートでは日本企業のROEの低さを問題視し、欧米並みのROE、つまり最低でも8%を目指すべきだという指針を強く打ち出しています。
村上さんのお父さんがかつて主張していたコーポレートガバナンス改革がここにきて一気に実現していますよね。そうした流れの中で今回、村上さんのファンドが黒田電気をはじめいくつかの企業の大株主になり、株主として企業と対話を通じてコーポレートガバナンスの適正化を求めるという活動を始められたということですね。
村上 おっしゃる通りで、コーポレートガバナンス・コードなどによって、父が活動していた10年前とは状況は様変わりしたと思います。
藤野 もう10年たつんですよね。
村上 その頃私は高校1年生でしたが、スイスに留学していたので父がマスコミに登場している様子を知りませんでした。高校を卒業する前に飛行機で日本に帰る時に機内のニュースで父を見て、こんな状況になってるんだ、と知りました。父がファンドの活動で有名になり、そのあと逮捕されて……という一連の出来事は当時多感な高校生だった私の考え方に大きな影響を及ぼしましたね。
藤野 高校生の村上さんには受け入れられないことではなかったのですか。
村上 当時、父の言葉の中で「金儲けは悪いことですか」という言葉だけ切り取られてしまいまして……。
父の意図としては日本の企業の資本が有効活用されていない状況を正して日本経済を良くしたいということがあったのですが、言葉の一部分だけが切り取られて「お金儲け」という言葉と父のイメージと結び付けられてしまったことに拒否感がありました。
父はもともと通産省でずっと国益を最優先に考えながら働いてきた人間なんです。その中で、上場企業にコーポレートガバナンスを浸透させるという仕事もしていました。そのように、「上場企業のあるべき姿を追及して世の中を変えたい」という強い思いで動いていたことを知っていたので、そこが世間には違う形で伝わっているのは非常に残念な気持ちでした。
またその当時、周囲から父に関するいろいろな評価が耳に入ってきましたが、私は自分自身で勉強して、父が何をやっていたのかを理解したいと思いました。そのことが、私も金融の世界へ行こうというきっかけになったんです。
そして今、コーポレートガバナンス・コードなどによる改革があって、環境的にもいままで父が目指していたことが実現する機運が高まってきたのかなと思います。