IFRS(国際会計基準)の導入によって、これまでの決算書(財務諸表)は、その姿を大きく変える(詳しくは第3回を参照)。投資家や取引先の実情を知りたいビジネスパーソンなど、決算書を利用する側の視点に立った時に、IFRSの導入によって、新たに何が分かるようになるのか、利用する際に心してくべきことは何か。『IFRSと新決算書』という著書を出し、IFRSに詳しい公認会計士の小澤善哉氏に解説してもらった。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 客員論説委員 原英次郎)

小澤善哉
おざわ ぜんや 1967年ニューヨーク生まれ、東京大学経済学部卒、1989年公認会計士2次試験合格。太田昭和監査法人(現・新日本有現責任監査法人)などを経て、97年に小澤公認会計士事務所を開設。『図解 ひとめでわかる時価・減損会計』『不動産保有の意味を問う』など著書多数。

 最初に、日本を軸にして、IFRS導入までに、まだ内容が決定されていない重要なものを中心として、その流れを簡単におさらいしておこう。導入は2つの段階に分けて行われる。

 第1段階は、すでにIFRSで規定されているものを日本に導入しようという流れだ。この4月にも「包括利益」の最終基準が決定されて、2011年3月期以降に包括利益が導入される。そのあとに、非継続事業損益の区分表示、売却予定の固定資産の区分表示が、審議される予定になっている。

 詳しくは後述するが、第2段階はセクション別の表示。これは財政状態計算書、包括利益計算書、キャッシュフロー計算書の財務3表それぞれが、各セクションに対応するように、串刺しにして表示しようというものだ。現在、IFRSサイドで検討しており、今年中に公開草案が公表されるといわれている。日本では2012年をメドに、IFRSを強制適用するかどうかが判断されて、適用が決まれば、15年か16年から強制適用されるという流れだ。

その他包括利益で分かる
保有資産の価格変動リスク

 決算書を利用する立場から見ると、IFRSは「包括利益」という概念と、セクション別の表示が導入されることが大きい。

 包括利益は1会計期間中の業績を表しているのではない。業績を表すのは、IFRSでも当期純利益の役割である。「包括利益」は当期純利益に、持ち合い株式など保有資産の含み損益(帳簿価格と時価の差)の「増減額」である「その他の包括利益」を足し合わせたものだ。

 つまり、包括利益は1会計期間で、「実質的」な純資産がどれだけ増えたか、減ったかを表し、その原因が期間損益(当期純利益)なのか、資産価格の変動によるものなのかが、読み取れるようになっている。

 言い換えると、「その他の包括利益」は、企業が保有している資産の価格変動リスクを表している。したがって、保有している資産の価格変動リスクが、大きいかどうかを、チェックすることができる。