挑発もせず、譲歩もせず、事実に基礎を置く

加藤 最後に、中国民主化問題についてお聞かせください。中国の将来的な政治体制を議論する際、中国の学者のなかに「中国とて例外ではない。いずれは民主主義の方向に向かう」と言う学者もいれば、米国の学者のなかに「いやいや、中国は例外だ。中国は民主化しない。独自の体制のまま進む」と言う人もいて、その見解は国内外で錯綜しているようです。北岡先生はどのようにお考えですか?

北岡 長期的には、政治体制の問題と、中国の国民がどう感じるようになるかということは別問題だと思います。国民はすでに、政府は信用できないと思ってるわけですよ。それは民主主義の基礎の1つだとも言えます。中国の制度はいい、世界中はこれに倣うべきだと思っているわけではないでしょう。

 中国のトップリーダーですら、世界の指導者になるつもりはないでしょう。東アジア、あるいはアジアの指導者になれればいいわけです。我々の常識からは理解しがたい面があるのも事実ですが、それも変わるとは思っています。加藤さんはどうですか。

「リーダーはしっかりと勉強して、事実から離れないようにすることです。また、無理な要求をしないほうがいいのかなと相手に思わせる力も必要ですね。なかなか難しいとは思いますが、それしかありません」

加藤 少なくとも日本としては、我々の常識が通用しないことを含めて、中国と付き合っていく辛抱と覚悟を持たなければいけないと思っています。米国にはその覚悟があると感じます。日本では、希望的観測で「中国は民主化すべきだ」と言ったり、あるいは「民主化しない中国とは話もできない」と感情的になることが多いと感じます。しかし、中国にはどこまで行っても異端児的な側面があることを前提に対話の糸口を探らなければ、議論にすらならないでしょう。共存共栄はまたその先の話です。

北岡 結局のところ、外交的には挑発も譲歩もせず、事実に基礎を置くしかありません。約束は守るという基本的なことだと思います。戦後70年の議論でも、お詫びに固執する人がいますよね。お詫びをしてもいいけど、事実に反するお詫びをされては困る。たとえば韓国に対して、日本は従軍慰安婦として少女を20万人連れていきました、という嘘を言ってはいけませんよね。一時的に相手を満足させるだけで、そんなやり方では尊敬されないからです。

 その意味でも、リーダーはしっかりと勉強して、事実から離れないようにすることです。また、無理な要求をしないほうがいいのかなと相手に思わせる力も必要ですね。なかなか難しいとは思いますが、それしかありません。

 加藤さん、頑張ってください。期待していますよ。

加藤 本日はお忙しいなかお時間をいただきありがとうございました。