日本を代表するオンライン金融グループのマネックスグループは、かねてより積極的に中国市場でのビジネスを行っている。中国マーケットが巨大かつ急速な成長を遂げる一方で、日米と比較するといまだ制度が未整備のためにリスクも少なくない。日本企業が中国でビジネスを進めるうえでは、何を重視すべきなのか。マネックスグループ代表執行役社長CEO・松本大氏に、加藤嘉一氏が聞いた。対談は前後編の全2回。(写真/引地信彦)
中国に何かを求めることはしない
加藤 私たちが最初にお会いしたのは、7年ほど前ですよね。
松本 2008年の3月ですね。うちが中国にオフィスを開く前でした。
加藤 そうですね。そのときにとても印象的なことがありました。中国の金融市場がどこまで開くかもわからず、ビジネスとしてどこまでコミットできるかは不透明だ。しかし、金融を通じて、中国の人たちにお金をマネージすることを知ってもらう教育と啓蒙の観点から、広大な土地でサービスを提供したいという話をされていたことです。その後、中国の国内状況にもいろいろな変化が生じたと思いますが、現在はどのような思いを持っていますか。
マネックスグループ株式会社代表執行役社長CEO
1963年埼玉県生まれ。87年東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズを経て、ゴールドマン・サックスに勤務。94年、30歳で同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。99年、マネックス証券株式会社を、04年にはマネックスグループ株式会社を設立。現在、事業持株会社であり、個人向けを中心とするオンライン証券子会社を日本(マネックス証券)・米国(TradeStation証券)・香港(マネックスBOOM証券)に有するグローバルなオンライン金融グループであるマネックスグループ株式会社およびマネックス証券株式会社両社のCEOを務める。
松本 当時と比べると、私たちにとっての中国という存在は、もっともっと現実のものになりました。変な夢を見ていませんし、同時に、必要以上の恐怖もありません。事実として、巨大なマーケットであり、また伸びているマーケットであるという認識です。
そう思うまでには、ずいぶんと失敗もありました。本土内のプロジェクトとしては、少なくとも2つは失敗して、3つ目がいま成功しつつあるという状況です。付き合い方を見ても、うわべではなく、中身のある付き合いができるようになってきています。ビジネスのプロジェクトに関しても、曖昧に夢を描くのではなく、実際の状況がこうだからこう伸びていくだろうと、その存在は現実化したという感じですね。
中国の金融市場全体について見ると、当時と大きく変わったかといえば、大きくはなりましたが、基本的な性質はそれほど変わっていないと思いますよ。
加藤 変わってほしいと思うことはありますか。
松本 手続きがもっと予見可能性のあるシステムになってほしいと思うことはありますが、欲してはいないですね。というのは、それは変わらないと思っているからです。
私は、30年前に米系の外資系金融機関で働き始めました。当時の同僚が、「日本はよくわからない。裁量行政のようで予見可能性が低い。何をやっていいのか、何をやっていけないのかよくわからない」と言っていましたが、今日の時点でそれが根本的に変わったかというと、変わっていませんよ。
日本のローカルのスタッフを抱えることで、日本の金融のフレームワークや行政のフレームワークと付き合える仕組みを手にしてきた、あるいは身に付けてきた。それによって、外資系も日本で働けるようになったにすぎません。
中国でも同じことです。中国にもっとこうしてほしいと言うのは簡単だけれども、それは言っても仕方ないことだと思っています。それよりも慣れること、どう対応できるかという術を身に付けていくほうが早く、現実的です。希望を言えばキリがありませんが、心から望んでいることではありません。
ただし、中国の金融市場、とくわれわれともっとも密接な関係にある株式市場が、いまだに噂ベースで動いている状況は気になりますね。実体経済や企業業績に対する分析で株価が動くのではなく、期待によって大きく動いてしまう。そこは早く成熟してほしい。
加藤 なるほど。とくに中国の株式市場が乱高下し、実体経済を反映していない株価を下支えするために、政府が強権を発動して市場に介入している現状はそれを示していますよね。
松本 中国の証券会社と比較して、われわれが彼らと差別化できるのは何かといえば、日米の資本市場で鍛えてきた、蓄えてきたマーケットのノウハウです。ただ、マーケットそのものがまったく違ってしまうと、お客さまにそれを役立てもらえない。そこは同じルールで、同じように動くようになるほうが、うちの良さを提供できるようになりますよね。だからこそ、そこは変わってほしいと思います。
さらに言えば、これはわれわれが一方的に欲しているのではなく、中国政府もその環境を求めているはずです。変わらないことについて嘆くのはどうかと思いますが、それを欲するのはありそうな話だと思います。当時と比べて、中国に対してかなり現実的になってきたと思いますよね(笑)。