旧松下電器産業(現パナソニック)の創業者、松下幸之助らが持っていたイノベーション精神を発揮できる環境を整える必要がある Photo:Fujifotos/アフロ

「大阪企業家ミュージアム」。大阪市の堺筋本町駅の近くにあるこのユニークな博物館は、明治維新以降の大阪にゆかりのある企業家105人を紹介している。

 展示室は時系列に沿って、企業家と関連企業が紹介されている。五代友厚(商船三井)、山邊丈夫(現東洋紡)、伊藤忠兵衛(伊藤忠商事、丸紅)などの「近代産業都市大阪の誕生」から始まり、大正、昭和へとつながっていく。順に歩いて回ると、大物企業家がきら星のごとく並び、実に壮観である。新時代を切り開いてきたイノベーション精神が強く伝わってくる。

 案内係の人に教えてもらったが、もともと江戸時代から大阪商人は、「お上」に頼らない自主自立の気概が非常に強かったという。ビジネスの発展に必要ならば、インフラ整備にも彼らは自ら投資した。淀屋橋など大阪の多くの橋や水路は、商人たちによって構築されたものである。

 しかしながら、展示コースの終盤である戦後のコーナーに進んでいくと、松下幸之助(現パナソニック)、井植歳男(三洋電機)、早川徳次(シャープ)、安藤百福(日清食品)あたりから、次世代を担う新興企業が急速に先細りとなっていくことにがくぜんとする。

 これは決して大阪だけの問題ではない。日本全体に共通する問題といえる。対照的に、米国であれば、アップル、ヤフー、グーグル、フェイスブック等々、この30年で新たな起業家による成功例が続々と登場している。新陳代謝は日本よりも活発である。

 昨年、米サンフランシスコの大手銀行を訪問した際に象徴的な話を聞いた。西海岸では優秀な学生はほとんどがシリコンバレーで働きたがる。それ故、金融をはじめとする既存産業は今や不人気業種であり、西海岸では人材確保が大変だという。対照的に、日本で今年の学生の就職人気企業ランキング上位を見ると、筆者が大学生だった30年近く前とほとんど変わっていないことに驚かされる。