ネットカフェで寝泊まりしている人々は、この夏からどこで夜を過ごせばいいのだろう。
3月30日、東京都は「インターネット端末利用営業の規則に関する条例」を可決した。これにより、業者は利用客の本人確認とその記録などの作成・保存が義務づけられることとなる。施行は7月1日から。
議論の発端となったのは、2006年に警察庁が開催した「総合セキュリティ対策会議」だ。
この会議の報告によれば、2005年中に警察が認知した不正アクセス行為592件のうち、未検挙の事件は277件。そのうち139件がネットカフェ利用者によるものだった。このため「ネットカフェ利用者の“匿名性”が犯罪捜査の障壁になっている」と問題視された。
とくに注目されたのは、ネットオークション詐欺や、スパイウェアで入手した秘密情報による不正アクセス行為や詐欺。また、ネットカフェからネット掲示板に自殺予告が書き込まれた事案でも、どの利用者が書いたかわからず、保護できなかった、という。
とはいえ警視庁の報告書によると、ネットカフェでの犯罪の8割以上が置き引きなどだったことから、一部の利用者の間では「単にロッカーを設置すれば解決するのでは」といった声も上がっている。
最大の問題は「利用客の本人確認」にあたり、運転免許証など身分証明書が必要になることだ。というのもネットカフェを常宿とする人には、運転免許証や社員証はおろか、健康保険証すら所持していない人が多いからである。
現在、公安委員会で本人確認の方法についての細則を検討中だが、まかり間違えば都内のネットカフェから締め出しを食う人々が大量に溢れるかもしれない――。
「刺すか、刺されるか」
ワーキングプアが実家に戻れないワケ
そもそも、住居がないためにネットカフェを寝ぐらとしている人は、どのくらいいるのか。
厚生労働省が2007年8月におこなった調査の推計によれば、全国でおよそ5400人。ただし、NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの理事、稲葉剛さんは次のように話す。
「調査はおもに昼間おこなわれたようですが、その時間帯はみんな日雇い仕事や就職探しのため、外出していることが多い。ネットカフェにはあまり残っていないのでは」
また、調査時から3年たった今ではさらに人数が増えているはずだ。
もやいの相談窓口に、こうした人々からSOSが寄せられるようになったのは2003年の夏頃からという。2005年あたりからどっと数が増え、以後は増加の一途だ。