2010年1月の経営破綻から、わずか2年7ヵ月で再上場を果たしたJAL(日本航空)。「奇跡のV字回復」と言われ、大きな話題を呼んだのは、もう3年も前の話になる。スピード再生は、カリスマ経営者・稲盛和夫氏(現名誉顧問)による「意識改革」と「部門別採算性」の二本柱の改革によって可能となったが、社員の「意識改革」に大きく貢献したのは、破綻後に再構築した“人財教育”にあった。過去の反省を忘れず、経営再建の機会を得ることができた感謝の気持ちを持つことに全社で取り組んでいることが好循環を生み、それはJAL社内で現在も継続されているという。
そこで、JALの社員教育を統括する「人財本部 意識改革・人づくり推進部」の野村直史部長に、JALが続けている人財教育の概要や、破綻後の社員の変化、今後目指すべきものを聞いた。企業が再生するとき、社員にはどのような意識の変化が起こるのか。方向性の違いに迷っている、そもそも方向性がわからない、仕事の意欲が沸かない、経営が他人事にしか見えない――企業や団体に在籍するそうした悩み多きビジネスパーソンにとっては、きっと「気づきのエッセンス」が見つかるだろう。(取材・文/安田有希子)
経営破綻の反省から再構築
JALの「人財教育」とは?
「以前のJALの特長として、組織が縦割りで、はっきりと分業体制になっていたことが挙げられます。整備は整備、運航は運航、客室は客室と。すると当然、自分の仕事と直接関わる部門以外との接点がなく、相互理解が進まないといった悩みがありました。それが破綻の反省をするなかで、部門間の横連携をとる方針に変わってきたのです」
野村部長は過去と現在のJALの体制を、このように比較する。
JALでは破綻以降、「意識改革」と「人づくり」の2つの観点に基づく人財教育を開始した。当然、航空会社として自分の担当する仕事の専門的な知識・スキル・能力を社員が磨き続けていることは、破綻前から変わらない。しかしそれ以前に、1人の人間として、JALの社員として、“身に着けておかなければならないこと”に関して、教育・研修の仕組みを新構築したのである。
社員教育を統括する「人財本部 意識改革・人づくり推進部」は、(1)「人づくり」を担う教育・研修グループ(一般的な社員研修、新入社員の教育や管理職研修などを行う)と、(2)「JALフィロソフィ」の浸透を図る2つの部門に分かれている。