前回、前々回で述べてきたように、「100年安心年金」の経済想定は、現実と比べてあまりに楽観的で非現実的な仮定を置いている。とりわけ賃金上昇率が2.5%とされていることが問題だ。
財政検証「経済中位」の経済前提では、それまで-0.2~-0.6%で下落を続けていた賃金が、2010年度から突如として3.4%上昇に転じ、その後も高い伸びを続けて、2016年度2.5%になると想定している。運用利回りも、2009年度1.5%であったものが、徐々に上昇し、2020年以降4.1%という高い利回りになることが想定されている。これらは明らかに不自然な想定だ。
実際には、日本の賃金は、1990年代の末以降継続的に下落している。現金給与支給額は、2001年の103.9から2009年の95.1に下落した。年平均下落率で言えば、1%ということになる。
将来の賃金上昇率が想定の2.5%を実現できなければ、結果は大きく違ってくる。この場合には、標準報酬が伸びず、保険料も伸びない。他方で給付は名目で固定されている。このため、財政収支が悪化する。
収支がマイナスになった場合に積立金を取り崩すこととすれば、積立金残高が減少し、運用益も減少する。したがって、収支悪化は加速することになる。
前回では、積立金の運用益を無視した簡便計算を行なったのだが、今回はもう少し本格的なシミュレーションを行なってみることとしよう。
賃金が上昇しなければ標準報酬は増えない
財政検証においては、標準報酬が【図表1】のL欄に示すような伸びになるとされている。