2015年10月21日、お台場を走ったデロリアンの燃料は、全国1450ヵ所もの回収拠点から集められた「着なくなった服」だった。では、なぜ小さなベンチャーが、150もの企業・団体を巻き込み、回収インフラを構築することができたのか?
「小売店の店頭を回収拠点にする」――バイオエタノールの原料になる「服」を回収するビジネスモデルを構築した岩元氏は、2012年、さらに規模を拡大するために驚くべきアイデアを実行に移す。著書『「捨てない未来」はこのビジネスから生まれる』から、「ありえないアライアンス」がいかにして成り立ったのか、見ていこう。
イオンとセブンが同じ企画で肩を並べた日
「小売業界の2強にがっちり握手をしてもらえれば……」
2012年も暮れようとしている頃、私の頭の中はあることでいっぱいでした。リサイクルの回収拠点となるボックスを小売店の店頭に置いてもらう――そのアイデアの実現のためには、当たり前ですがたくさんの小売店を巻き込む必要があります。
では、どうすれば、日本全国にある小売店を巻き込んでいけるのか。私が出した答えは、シンプルで、そして「ありえない」ものでした。
小売業界の2強を、同時に味方につける。
書いてしまえばわずか20字足らずの戦略ですが、当時は誰に言っても「できるはずがない」と言われました。その理由は、「2強」の名を見ていただければわかると思います。
1つは、2015年時点で売上高が年間7兆円超、営業利益が1400億円超のイオン。
もう1つは、同じく売上高が年間6兆円超、営業利益が3400億円超のセブン&アイ・ホールディングス(以下セブン&アイ)。
そうです。どちらも、創業数年の小さなベンチャーが巻き込むには巨大すぎる相手なのです。それでも私は、この2社に同時に参加してもらうことで潮目が変わるはずだ、そう思ってセブン&アイのある四ッ谷駅と、イオンのある海浜幕張駅を何度も何度も往復しました。
小売業界の2強にがっちり握手をしてもらう――それが叶ったのは、交渉・調整を始めてから半年以上が経った2013年初めのことでした。
「横串を刺す」
――小さいベンチャーだからこそできた立ち回り
イオンとセブン&アイの同時参加を成功させた要因は何だったのか――。
私には、両社の内部でどういう協議が行われたかを知るよしもなく、確たることはわかりませんが、いくつか思い当たることはあります。
ポイントは、業界の垣根を越え、コンシューマービジネス全体で横串を刺してリサイクルを回す発想です。
消費者目線で考えると自明のことですが、「お近くのお店どこでも回収しています」という状態をつくってあげたほうが利便性は高くなります。「セブンでもイオンでも回収しているんだ」「どのお店でもルールは同じなんだ」という認識が広まれば、リサイクルにまつわる煩雑さは減少していきます。
この社会にいる人みんなに使ってもらえる「インフラ」を目指す私たちとしても、目指すべき方向性としては正しいと言えるでしょう。
だからこそ、1つの業界にとどまるよりも、幅広い業界からものを集めたほうがいい。なぜなら消費者もそれを望んでいるから――。これは発想としては単純ですが、日々、業界内の競争を意識している単体の企業からはまず出てこない考え方です。社員個人が頭の中で、そういうことを思いついたとしても、企業のオフィシャルな意思決定の場でまともに議論されるとは到底思えません。私自身、会社員時代はまさにそうした反応にもどかしさを感じていた1人です。
それができたのは、日本環境設計が業界の外側の独立したポジションにいるからです。社会全体でリサイクルインフラをどうつくるかを考えているから、業界の垣根を飛び越える発想が出てきますし、それを実際に行動に移すことができます。そもそも、「業界内のライバルと一緒にこの企画をやりましょう」などと平気な顔して提案できるのは、やはり当社が業界の外側にいるからにほかなりません。