自ら「ミニ東大生」に堕するのは馬鹿げている…

テレビの情報番組のコメンテーターをやることになり、お笑い芸人の方々と仕事をご一緒する機会が増えた当時の僕は、彼らの圧倒的思考力に驚き、これからの日本では「考える」ことがカギになると改めて感じていた。

考える力さえ磨けば、どれだけ勉強が苦手だろうと、どれだけ知識がなかろうと、下剋上できてしまうフィールドがいまの世界では増えつつある。だからこそ、そのチャンスが来ていることを学生たちにもわかってほしかった。

しかし、「学ぶ」のフィールドで勝負している限り、必ずその先には東大卒のような学歴エリートが立ちはだかっている
もちろん勝てる可能性はゼロではないが、残念ながらここでは生まれ持った「学ぶ力」の差がかなり大きく影響する。

だとすれば、自ら進んで「ミニ東大生」に堕する理由などないではないか。

彼らが普段何を考えて暮らしているのかは知らないが、有名なテレビプロデューサーが受け持つ授業に出席していたということは、多かれ少なかれ、「将来的に何か創造的なことをして世の中を驚かせたい」という気持ちがある若者たちのはずだ。
にもかかわらず、彼らは到来するチャンスに気づかないまま、「正解」を学ぶ態度に安住してしまっている。
それが僕には残念でならなかったのである。

唯一救いだったのは、授業後のアンケートで「『言葉をはっきりさせろ』というアドバイスにはっとさせられた」「『東大卒に勝てない』と言われてびっくりしたが、お話を聞いてなるほどと思った」といった、かなり好意的な意見が9割以上を占めていたことだ。

そう、彼らだって「考える」ことの大切さに気づく機会がなかっただけなのだ。このとき感じた「しっかり伝えればわかってもらえる」という手応えが、『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか』を書くきっかけとなった。

だからと言って誤解しないでほしいのは、僕は「学ぶ」を否定したいわけではないということだ。時代や局面によっては知識こそが、競合に勝つための最強の手段であることは十分あり得る。これについてはまた次回。
 

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津田久資(Hisashi Tsuda)
東京大学法学部、および、カリフォルニア大学バークレー校経営大学院(MBA)卒業。
博報堂、ボストン コンサルティング グループなどで一貫して新商品開発、ブランディングを含むマーケティング戦略の立案・実行にあたる。
現在、AUGUST-A株式会社代表として、各社のコンサルティング業務に従事。また、アカデミーヒルズや大手企業内の研修において、論理思考・戦略思考の講座を多数担当。表層的なツール解説に終始することなく、ごくシンプルな言葉で思考の本質に迫る研修スタイルに定評があり、のべ1万人以上の指導実績を持つ。
著書に、就活面接本の超定番書ロジカル面接術』『世界一わかりやすいロジカルシンキングの授業』『出来る人ほど情報収集はしないもの!などがある。