イラスト/びごーじょうじ

 1917(大正6)年の出来事である。1人の男が「会社を辞めてぜんざい屋でもしたい」と妻に打ち明けた。大の甘党の彼は好きなぜんざいで商いをしてみたいと考えたのだ。だが妻から「あなたに水商売は向きませんよ」と諭した。

 ぜんざい屋になることを諦めた彼が次にとり組んだのが電球ソケットの改良だった。そうして出来上がった試作品を勤め先に持ち込むも、相手にされない。のちに「このソケットは一利一害で全くの失敗であったことがわかった」のだが、彼はこのソケットを製造して見返してやろう、と独立を決意。サラリーマン生活から足を洗い、経営者への道を歩みはじめる。

 男の名は松下幸之助。松下電器産業、現在のパナソニックを一代で築き上げた大経営者である。後年、経営の神様と呼ばれ歴史に名を残す松下幸之助はこの時、妻に止められなければぜんざい屋のおやじになっていたのかもしれない。

 日本の経営者に長寿者は多いが、松下幸之助の94歳も立派である。もともと体が弱い幸之助は、何度も重い病気を患った。不眠症にも悩まされ、睡眠薬を手放せなかった。

 そんな生活故に幸之助は健康には人一倍、気を使っていたようだ。