Photo by Photo by Yuji Nomura
スーパーマーケット内に設置したインショップ「農家の直売所」などで野菜などの流通の変革を目指してきた農業総合研究所(農総研)が、SOMPOホールディングスに138億円で買収された。2016年に東証マザーズ(現・東証グロース)に農業ベンチャーとして初めて上場を果たした農総研は、新たなオーナーを迎えて非公開化した後、どんな経営戦略を実行するのか。長期連載『儲かる農業 JA・豪農・アグリビジネス大激変』の本稿では、農総研の堀内寛社長に、農産物流通の課題や今後の経営方針を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
■農畜産業の生産者 緊急アンケートはこちら
■JAグループ役職員 働き方改革アンケートはこちら
非公開後は、リスクを取って高く野菜を買い取る!
AI・IT投資を5倍、物流投資を2倍にして大勝負
――JAや卸、仲卸業者を中心とする農産物流通は、デジタル化による効率化などが期待されていますが、改革が進んでいません。
市場流通は、需要と供給のバランスが取れていないと感じています。農業が儲からないといわれる要因に、需要に合った量を作るのではなくて、今までの生産量をそのまま作り続けている問題があります。
農業総合研究所(農総研)は、流通の実態を知るために卸売市場に出資して、人を送り込んだのですが、市場の先にある需要を見て、市場がものを集めているのではなく、産地(主にJAのこと)から前年と同じ量を送ってもらうために仕事をしている面があることが分かりました。
「去年と同じ量は要らない」とJAに言ってしまうと、ものが集まらなくなるジレンマを市場は抱えています。
――「今年は減らしていいよ」とJAに言ってしまうと、必要以上にネガティブなメッセージとして伝わってしまうと。
そうです。「(減らしていいと言われたら)だったら他の市場に出すよ」というJAさんが多いと思います。そうなると市場は、余りそうな量でも引き取らなければいけない。こんなことがあちこちで起きています。
市場があるエリアで、何がどれぐらい、いつ必要なのかをあまり把握できていないのは、(卸売業者と実需者の間に)仲卸さんが入るからです。卸は、仲卸が何をどれだけ買っているかは把握していますが、その先で、仲卸が捨てているものや、半値以下で売っているものの量は把握できていません。そういうわけで、需給の調整ができないので、野菜などの相場が乱高下してしまうのです。
――2020年に施行された改正卸売市場法によって、卸と仲卸の垣根はなくなりました。制度が変わっても実態は変わっていないのですか。
豊洲市場の東京シティ青果さんに荷受け(卸)と仲卸を一体化させられないか相談したことがあります。荷受けである同社は「それはいい」と言うのですが、豊洲で営業する100社以上の仲卸をまとめるのが並大抵ではないという結果になりました。月の取引額が何百万円の(比較的小規模な)仲卸もいろんな意見をお持ちです。それらをまとめて仲卸を少し絞るとか、荷受けと一体化する取り組みは難しいと感じました。
豊洲に限らず、どの市場でも同じかと思います。弊社が出資した富山中央青果という市場も、荷受けと仲卸を一緒にするのは難しい。皆、頭では一体化した方がいいと思いながら、実際には、あの仲卸とは歴史的に仲が良くないから一緒になりたくないと言う。そういう気持ちの問題が大きいのです。
――農総研には、スーパー内の「農家の直売所」コーナーが全国に2100カ所あり、そうした売り場に野菜などを出荷する農業者が1万1000人弱います。2月24日にSOMPOホールディングス(HD)の傘下に入りして上場廃止になると、戦略にどんな変化がありますか。
大きく二つあります。第一の変化は、野菜などを産地から買い取る際の価格の設定でリスクを取れるようになることです。上場していると黒字であることを最低ラインとして株主から求められ、リスクを取りにくいので、適正価格で買えなかったり、大量に買えなかったりといった課題がありました。
――農業者が販売価格や販売先を決められる農家の直売所事業(25年8月期の流通総額144億円)は農業者から販売を委託され、農総研が販売手数料をもらうビジネスです。買い取りを強化するということは、生産者から野菜などを買ってスーパーに卸す産直事業(同28億円)を伸ばすということですか。
その通りです。農家の直売所コーナーは、スーパーの青果売り場の10%ぐらいで、残りの90%は市場流通の商品が並んでいます。この市場流通の部分の棚を取りにいく。そのために、会社のリソースの半分ぐらいを割いています。
――青果流通の本丸を取りにいくということですね。農家の直売所コーナーは、農業者にとって、市場出荷の規格にとらわれず出荷できるメリットがある一方、農業法人などの主な出荷先ではなく、それを補完するサブの出荷先という位置付けにとどまってきた面がありました。今後は、大規模な生産者のメインの出荷先として選んでもらえるようにするのですか。
そうです。言葉を選ばずに言うと、市場やJAさんと競合する立ち位置、既存の市場流通の関係各社と完全にバッティングする領域に踏み込もうと思っています。他方、後ほど詳しく述べますが、市場やJAさんとは提携も模索します。
委託販売である農家の直売所は生産者が自由に出荷できるコーナーです。市場とかJAさんに出荷できない規格の野菜も出てきますし、規格品でも市場に出したら二束三文になってしまう時期に、生産者が自分なりの高値を付けて出してくる、そんな傾向もありました。
ただ、価格が高いときや乱高下していないときは、いい規格のものは8割ほどJAさん経由で市場に出てしまう。それで生産者が儲かっていれば問題ないのですが、儲からないならば農総研が農家の直売所を増やしても何も変わらないと思ったのです。ここを変えるには、市場と対抗する位置、つまり売り場の9割を占める市場経由の野菜が並ぶコーナーに、弊社が生産者から買い取ったものを並べる必要があると考えました。
――第二の変化は何でしょうか。
青果物の品質を保つための保管、コールドチェーンの設備投資額を5倍に、AI(人工知能)を含むIT投資額を2倍に増やします。
農総研の堀内社長は、農協や市場に競合する立ち位置に踏み込む決意を語った。今後は卸売業者などに対するM&Aも視野に入れて事業を成長させるという。次ページでは、資本提携を結んでいたNTT東日本の農業子会社、ハウス食品グループ本社、国分グループ本社との関係がどうなるかも含め、新たな戦略を具体的に語ってもらった。







