アパレルの常識を変えたワールドとZARA、<br />なぜ明暗が分かれたのか さとう・ちえ
1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。報道番組や音楽番組のディレクターとして7年間勤務した後、2000年退局。 2001年米コロンビア大学経営大学院卒業(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタント として独立。2004年よりコロンビア大学経営大学院の入学面接官。近年はテレビ番組のコメンテーターも務めている。主な著書に『世界最高MBAの授業』(東洋経済新報社)、『世界のエリートの「失敗力」』(PHPビジネス新書)、『ハーバードはなぜ仕事術を教えないのか』(日経BP社)
佐藤智恵オフィシャルサイト

佐藤 ワールドはどのようにリードタイムを短縮したのですか。

ラマン ワールドは、「アキュレート・レスポンス」(=需要に正しく応える、という意味)という需要予測システムを導入して、どの商品がどの程度売れるかを予測してから、シーズンの最初に投入する商品の生産数量を決定していました。需要予測してから原料を発注し、生産を開始し、追加補充もできる仕組みです。

 なぜ2週間で期中商品を追加補充できるのか、アンタイトル(女性向けブランド)の例で説明しましょう。アンタイトルのバイヤーは「この商品ラインが今、とても売れているから、もっと製造してほしい」と縫製メーカーに発注します。売れれば売れるほど、メーカーに注文して補充する、という仕組みです。ところが、それを2週間でやろうと思うと様々な事態が生じます。

 たとえば「この商品をもっと製造してください」と発注しても、縫製メーカー側が「製造したいのですが、指定の黒ボタンがないからできません」となる。全く同じ黒ボタンを調達しようとすればかなりの時間がかかる。そこでワールドは「黒じゃなくてもいいです。在庫があるグレーのボタンでいきましょう」と柔軟に対応することにしたのです。

佐藤 まさにワールドは「ジャスト・イン・タイム」の生産方式をアレンジして、アパレル業界にもちこんだわけですね。

ラマン ワールドでは、需要を予測するのに、オーバーマイヤー法も採用していました。オーバーマイヤー法はもともとアメリカのスキーウェア専門ブランド「スポーツ・オーバーマイヤー」で使われていた需要予測システムです。

佐藤 具体的にどのようなシステムですか。

ラマン オーバーマイヤー法とは、ある商品が「需要予測可能な商品」か、「予測不能な商品か」を事前に把握する方法です。6人の専門家に商品がヒットするかどうか予測してもらって、6人が6人とも同じように売れると判断したら、需要予測可能な製品、6人が売れる、売れないで分かれたら、予測不能な製品、ということになります。

 私はオーバーマイヤー法についても研究しましたが、ワールドの予測システムのほうが優れていたように思います。ここでもまた日本企業は「改善」を加えたのです。

佐藤 ワールドはオーバーマイヤー法をどのように改善したのでしょうか。

ラマン ワールドの場合は、専門家ではなく、店舗スタッフを神戸の本社に集めて、売れるかどうか、各商品を採点してもらうのです。店舗スタッフは、その商品のターゲット年齢の女性たちです。

 ここまではオーバーマイヤー法に近いのですが、そのあとが違います。ワールドは「売れない」と判断された商品について、「この商品のどんなところが気に入らないですか」とスタッフに意見を求めるのです。そうすれば女性たちは「生地は好きだけれど、着心地が悪い」とか、「着心地もいいし、生地の感じも気に入っているけれど、このボタンは変えてほしい」とか、改善点を指摘することができます。こうした情報を集めて、製品に改良を加えてから、初めて店頭に商品が並びます。

 女性スタッフに、社員として「売れるか売れないか」を予測してもらい、顧客として、「好きか嫌いか、なぜ嫌いか」を答えてもらう。非常に効率のよいやり方です。