グローバル派 vs ローカル派。ビジネスの世界でも政治の世界でも、両者の主張は平行線。どんなに政府が「グローバル化が最優先課題」と言ったところで、ローカル派の人たちにはピンとこない。何の不自由もないのになぜわざわざ海外に?といったところだろう。近著でビジネスのグローバリゼーションについて論じたクエルチ教授は、両者は永遠に分かり合えない、という。それでも日本経済が再生するには、あらゆる分野でグローバル派を増やしていくしかない、と結論づける。最近の日本にはガッカリしている、と嘆くクエルチ教授に辛口な意見を伺った。(聞き手/佐藤智恵 インタビューは2015年6月25日)

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日本にがっかりした理由

ジョン・クエルチ 
John Quelch
ハーバードビジネススクール教授兼ハーバード大学公衆衛生大学院教授。専門は経営管理、マーケティング、医療政策、医療経営。MBAおよびMPHプログラムの学生を対象とした選択科目「消費者と企業と公衆衛生」を開講し、両校で教鞭をとる。多くのケース教材を執筆し、経営学の教授法にイノベーションをもたらしたことで有名。過去35年間で売れたケース教材は約400万部。ハーバードビジネススクール史上3番目の多さを誇る。これまで25作の著書を出版。近著に“All Business is Local: Why Place Matters More Than Ever in a Global, Virtual World” (Portfolio 2012). 2016年、公衆衛生とビジネスについてまとめた新刊 “Consumers, Corporations and Public Health”(Oxford University Press 2016)を出版予定。

佐藤 昨年、ハーバードビジネススクールの視察プログラムで来日され、多くの日本企業を訪問したとうかがっています。実際に日本を訪れてみて、次の研究テーマになりそうな企業は見つかりましたか。

クエルチ 「この視察旅行で、日本への興味がさらに湧いてくるに違いない」と楽しみにしていたのですが、実際、視察してみたら、少しがっかりしたというのが本音です。私が期待しすぎていたのかもしれないのですが。

佐藤 日本のどんなところにガッカリしてしまったのでしょうか。

クエルチ 視察プログラム自体は大変面白かったのです。大手からベンチャーまで様々な日本企業を見ることができました。でも私は日本について長年研究している分、「どんなすごいイノベーションが日本で見られるのだろう」と大きな期待を抱いて日本に来たものですから、「この程度なのか…」とちょっとガッカリしてしまったのです。

 過去20年間、日本経済は停滞していると言われていますが、科学、エンジニアリングの分野で日本はいまだ世界トップクラスです。高等教育のレベルも相変わらず高い。もっとイノベーションが生まれてもおかしくありません。それなのになぜ、経済だけではなくイノベーションも停滞してしまっているのか。大変残念に思いました。

佐藤 なぜ日本からイノベーションが生まれにくくなっているのでしょうか。

クエルチ 業績の停滞で、研究開発に十分な投資ができなくなったからです。かつて日本企業は最先端のイノベーションを生み出してきました。ところが現在、自動車メーカー、家電メーカー、製薬企業もイノベーションの能力を取り戻そうとはしていますが、現状維持が精一杯。社内の研究者たちは自信を失ってしまい、新しいことに挑戦しなくなり、イノベーションへの情熱も失ってしまいました。

 もちろんロボティックスのように日本が最先端である分野もあります。ところが全体的に、日本企業は、開発スピードが遅い。スピードで他国の企業に負けてしまっているのです。近年のソニーの凋落はまさにその象徴とも言えます。日本企業が最も革新的だった時代は、「超高速」で技術を開発する必要はありませんでした。現在は、すぐに市場に通用する技術を「超高速」で開発しなくてはなりません。

 それに加えて、日本企業だけではなく、日本の社会全体にイノベーションを生み出しにくい雰囲気が蔓延していることがあります。