「普通の住まいに住みたい」という
刑務所出所者・長期入院患者の希望を叶えてみると?

熱意を込めて講演するAmanda J. Harris氏 
Photo by Yoshiko Miwa

 Amanda J. Harrisさんは、ワシントンDCで「ハウジングファースト」に取り組む「Pathways to Housing DC」の最高責任者だ。ソーシャルワークと公共政策の2つの修士号を持つHarrisさんは、「ハウジングファースト」の特色を、

「『ハウジングファースト』では、生活困窮者に対して最初に恒久的な住居、シェルターのような一時的な住居ではない住居を提供するわけですが、その際、条件を設けません。(アルコール依存症者が)断酒を誓ったりしなくていいんです」

 という。もちろん、依存症者が酒や薬物に手を出してしまい、住居や近隣との関係で問題を起こしてしまうことは起こりうるのだが、自分の行為の結果に責任をもつことも含めて「地域生活」だ。それにしても、シェルター・施設・病院の中ならば、被害は「一般市民」には及ばないかもしれないが、Harrisさんは、

「シェルターは、あまり良い場所ではないんです。自分の荷物が盗まれたりしますし」

 という。確かに、路上生活者向けシェルターにせよ、DV被害者のためのシェルターにせよ、シェルターを経験した人々が「良い場所だった」「快適だった」「楽しかった」と語るのを聞いたことはない。たいていはドミトリールームのような大部屋で、隣のベッドに来る人を選ぶことはできない。自分が数日ぶりの入浴と食事で一息ついたところに、妄想を語り続ける人がやってきたり、長期の路上生活で不潔な状態になった人がやってきたりする。ベッドには南京虫もいたりする。屋根があって食事は出るし、シェルターの外から危険がもたらされることはないが、経験者の話を聞く限り、安全・快適というわけではなく、「短期間の仮の暮らしなら耐えられるかもしれない」という性質のものであるようだ。

 私は、自分なら耐えられそうにはない暮らしを、自分より悪条件にある人に「死ぬよりマシなんだからガマンすべきだ」と言う気にはなれない。自分より悪条件にあるということは、健康でいようとする力・ポジティブになる力・ガマンする力・そこでもできることを考える力・抜けだそうと考えて実行する力など、全ての力が発揮しにくくなっているということだからだ。

 Harrisさんによれば、Pathways to Housingの活動のきっかけは、創設者である精神科医・Tsemberis氏が、刑期を終了して出所する人々や、精神科病院に入院している長期入院者に「何をしてほしい?」と尋ねたことであるそうだ。答えは、「アパートに住みたい」だった。Tsemberis氏は、その希望を叶えた。すると良好な結果につながり、コストも削減できることが判明したわけである。

「道義的に正しいだけではなく、安く上がるんです。病院・シェルター・刑務所にお金使うのは賢くないと社会が学習しました。2010年ごろからは、ブッシュ大統領が大きく後押ししてくれるようになりました。ハウジングファーストを取り入れていないプログラムには『費用対効果が悪いから』と資金が出なくなるほどの変化が起こりました」(Harrisさん)