マネージャーになることを決めた夢は、みんなと一緒にマネジメントの勉強を始めます。ところがそこで、真実がこう言い出しました。
「ドラッカーの『マネジメント』だと、文乃先生の二番煎じになっちゃって、面白くないと思うんです。私たちは私たちの、新しい『本』を読みたいなって」
そこで真実が取り出したのが、ドラッカーの『イノベーションと企業家精神』。そうして夢たちは、まずはこの本を読むことからマネジメントをスタートします。
「すごい、真実と公平さんは、
すでに企業家精神を持っている!」
学校からの帰宅途中、夢はこの一帯では一番大きな駅である高幡不動に立ち寄り、駅ビルの書店で『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』を買った。著者はP・F・ドラッカーで、翻訳者は上田惇生、出版社はダイヤモンド社で、価格は一六〇〇円プラス税だった。
その値段は、夢にとってけっして安いものではなかった。ただ、参考書は親にお金を出してもらえることになっていたから、そこはあまり大きな問題ではなかった。
それよりも問題だったのは、読むことの方だった。夢は、その本の出だしでいきなりつまずいてしまった。
一八〇〇年頃、フランスの経済学者J・B・セイは「企業家は、経済的な資源を生産性が低いところから高いところへ、収益が小さなところから大きなところへ移す」といった。しかしセイが「企業家(entrepreneur)」なる言葉をつくって以来、いまだに企業家と企業家精神の定義は確立していない。(三頁)
この文章において、夢はそもそも「企業家」の意味が分からなかった。しかしそれは、本のタイトルにも使われていることから重要であろうことは推察できた。だから、分からないままでいるのはまずいと思い、広辞苑を引いてみることにした。