グラウンドから帰る道すがら、真実はこう言った。
『マネジメント』だけだと、文乃先生の二番煎じになっちゃって、面白くないと思うんです。私たちは、その先を行かないと」
 また公平も、こんなふうに言っていた。
「いいねえ! 新しいことするの、おれも好き」
 この二人は、ともに同じことを言っていた。ともに「新しいことをしたい」と言っていた。ともに「すでに行っていることをより上手に行うことよりも、まったく新しいことを行うことに価値を見出」していた。
 それに気づいて、夢は感心した。
(すごい、真実と公平さんは、すでに企業家精神を持っている!)
 次いで、夢は自分のことを思った。
(それに比べると、私には企業家精神が足りない。二人がその話で盛り上がっているとき、ピンと来るものがなかった。正直、読む本は『マネジメント』でいいのでは──と思ってしまったくらいだ)
 つまり、自分はどうやら「企業家」ではないらしい──夢は、そのことを認めないわけにはいかなかった。
 しかし彼女は、それを気にしなかった。自分にそうした素養がなくとも、差し当たり問題ないと思った。
 なぜなら、夢にはもともと自分の評価を低く見積もるところがあった。だから、「企業家精神」がないと分かったからといって、今さらショックを受けたりしなかった。また、真実の手伝いをするつもりでマネージャーになったのだから、自分が「企業家」でなくとも問題はないだろうとも思っていた。
 夢は、真実が大好きだった。それは、真実の前だと素直でいられるからだ。
 夢は、真実の言うことをなるべく素直に聞きたいと思っていた。そうすることで、これまでいいことがたくさんあったし、これからもいいことがありそうな気がしていた。
 だから、考えるより先に「マネージャーになる」と答えたのだ。考えるのはその後でかまわなかった。
 そのため夢は、自分には「企業家精神」が欠けているということも、あまり深くは考えなかった。ただ「自分は企業家ではない」と認めただけで、すぐにそのことは忘れてしまった。そうして、さらに続きを読み進めた。
 しかし夢は、やがて「企業家精神の欠如」に苦しめられることになる。ただしもちろん、このときの彼女にはそれを知る由もなかった。(つづく)

(第6回は12月17日公開予定です)