それに対し、五月は頷きながらこう言った。
「分かる気がするわ。私も、あるとき髪をばっさり切ってきたの。そうしたら、あまりにみんなが『似合わない』って言うんで、びっくりしたことがあったわ」
 そう言った五月の髪型は、今はやや短めのショートカットだった。
「でも、それ以上に驚いたのは、一週間も経つ頃には、みんながそれをすっかり忘れてしまっていたことよ。それどころか、最初は『似合わない』って言っていた人が、『似合う』って褒めてくれたりもしたの」
「ほう」
「今思えば、あのときみんなは『髪型』に抵抗を覚えたんじゃなくて、『変化』に抵抗を覚えていたのね」
「それは興味深い話ね。今ので思い出したんだけど、ドラッカーはこんなことも書いているわ」

さらによく起こることとして、予期せぬ成功は気づかれさえしない。注意もされない。利用されないまま放っておかれる。(一七~一八頁)

「──つまり、多くの人は変化に抵抗を覚えはするんだけど、それに無自覚でもあるのよ。自分でも気づかない場合が多いの。だから、五月ちゃんの髪型に抵抗を覚えた人も、それを自覚していないのよね。それで、ほとぼりが冷めたら『似合わない』と思ったこともすっかり忘れ、『似合う』って言ったんだわ」
「そう考えると、予期せぬ成功って意外と身近に転がってそうね──」と五月が言った。「私たちの周りにも、気がついていないだけで、実は予期せぬ成功って起きているのかも」
 それに洋子が同調した。
「そうそう。人間って『成功』には鈍感なものよね。みんなやっぱり基準を高く持っているから、成功しても『当たり前』と思っちゃうんだわ」
 それを聞いて、真実がふと何かを思いついたような顔になった。
「それで言うと、今の私たちにも、すでに成功していることってあるんじゃない?」
「え、なに?」と公平が身を乗り出した。
 すると真実は、にやりと笑いながらこう答えた。
「分かりません? 公平さん、さっき自分で言っていたじゃないですか」
 それを聞き、ふいに夢が声を上げた。
「マネージャー!」