それで、夢は困ってしまった。
夢はこのとき、その答えを一生懸命探していた。真実がマネージャーになった動機をみんなに聞くと言った瞬間から、なんと答えようか、ずっと考えていた。
しかしそれは、なかなか思い浮かばなかった。正直なところを言えば、それは「真実に誘われたから」という答えになる。しかし、それではダメなような気がした。あまりに主体性がなさすぎて、みんなからバカにされるのではないかと怖れた。
幸い、真実は指名するのを最後にしてくれた。もしかしたら、夢が答えに窮しているのに気づいて、後回しにしてくれたのかもしれなかった。それでも、夢はなかなか気の利く答えを見つけられずにいた。
そこで仕方なく、とりあえず口を開いてみることにした。口を開けば、何か言葉が出てくるかもしれない──そう開き直って、立ち上がった。
そうして夢は、言葉を発した。
「私は……」
そこで夢は、束の間、一同を見渡してみた。するとみんな、真剣な眼差しで夢を見つめていた。
それから夢は、教壇に立っている真実を見た。すると真実も、やっぱり真剣な眼差しで夢を見ているのが分かった。
しかしその表情は、他のみんなとは少し違っていた。真実の顔は、心なしか楽しそうだった。その口元には、わくわくしているような微笑みが浮かんでいた。そこからは、夢の言葉を心待ちにしている様子が窺えた。それは、夢と話をするとき、真実がよくする表情だった。
それを見て、夢にはふいにある言葉が思い浮かんだ。そこで、彼女はこう言った。
「私は……『居場所』を探していたの」
それに対して、真実が尋ねた。
「居場所?」
すると夢は、しばらく俯いて考えた後、再び顔を上げるとこう答えた。
「私は、居場所を探していたの。どうしてかというと、いつも『居場所がない』って感じていたから。家でも学校でも、私は居場所がないと感じていた──」
そこで一旦間を置くと、再び口を開いてこう続けた。
「──でも、真実と友だちになって、私は『居場所ができた』と思った。真実と一緒にいると、私は居場所を感じられた。真実が、私の居場所を作ってくれたんだ」
みんなは、それを黙って聞いていた。夢は、さらに言葉を続けた。
「私は、居場所がほしかった。だからマネージャーになったの。野球部のマネージャーになって、そこに居場所を作ろうと思ったんだ」(つづく)
(第8回は12月22日公開予定です)