280万部のベストセラー『もしドラ』第2弾、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』(通称:もしイノ)が、ついに発売されました。著者の岩崎夏海さんと、カドカワ社長の川上量生さんが語り合う刊行記念対談。開口一番「『もしイノ』、おもしろかった!」と言った川上さん。川上さんと一緒に、『もしイノ』、そしてドラッカーの魅力を紐解いていきます。
(構成:崎谷実穂、写真:京嶋良太)

『もしイノ』を読んで、『もしドラ』を思わず読み返した

川上『もしイノ』、めちゃめちゃおもしろかったです。

岩崎 それはよかったです! ありがとうございます。

川上『もしイノ』読んで、『もしドラ』を読み返したくなりました。僕、じつは日本でもっとも早く『もしドラ』を読んだひとりだったんですけど、「つまんない」ってダメ出ししたんですよね。

岩崎 ええ、ええ。そうなんです(笑)。

川上 えーと、すみませんでした(笑)。それは、僕が読み方を間違えていたからだったと、今回気づきました。作品のことを理解していなかった。読み返したら、『もしドラ』もおもしろかったんです。そして、さらに『もしイノ』のほうがおもしろいですね。

岩崎 実は、僕もそう思っています。

川上 これを機に、ドラッカーの著作も改めて読みました。僕は先入観で、ドラッカーの著作と『もしドラ』『もしイノ』は、まったく別物だと思っていたんですよ。でもドラッカーの本って、実例をもとに世の中の仕組みはどうなっていくのかを理論立てていくんですよね。つまり、物語を軸にしてドラッカーを解説するという岩崎さんの本と、極めて近い方法で書かれている。

岩崎 ドラッカーのほとんどの著作を訳している上田惇生先生も、同じことをおっしゃっていました。そして、例えば任天堂やAppleなど、成功している企業の事例にも、ちゃんとドラッカーの考えは当てはまるんですよね。おそらく、スティーブ・ジョブズも、岩田聡さんもドラッカーはそんなに読んでなかったと思うのですが。

川上 でも持論として語っていたことが、ドラッカーが何十年も前に語っていたことと重なる。じつは僕、以前はドラッカーを敬遠していたんですよ。それは、「ドラッカーはすばらしい!」と称える人が、なんだか気持ち悪くて(笑)。著作を読んで考えを改めたのですが、この現象ってなんなのでしょう。

岩崎 それは……わからなくもないですね。ドラッカーって、善人から悪人までみんなが自分を見出す、鏡のようなところがあるんです。ドラッカーを読んで「これはおれのことだ」と思いやすいんですよね。だから、知らない人から見ると、怪しい宗教のように見える場合があるのかもしれません。

川上量生(かわかみ・のぶお)
1968年生まれ。91年に京都大学工学部卒業。同年、株式会社ソフトウェアジャパン入社。97年に株式会社ドワンゴ設立、代表取締役に就任。現在、同社代表取締役会長、カドカワ株式会社代表取締役社長、スタジオジブリプロデューサー見習い。06年よりウェブサービス「ニコニコ動画」運営に携わる。

川上 読んで思ったのは、ドラッカーは現象の中から本質を見出そうとしていて、その過程でいろいろな実例を出しますよね。その実例が、理論そのものはあまり理解できない人にとっても、共感を持ちやすいんです。ある種の「あるある話」のようなかたちで、感銘を受ける。それが、ドラッカーが広く受け入れられている理由でもあり、誤解されている原因でもあるのかなと。

岩崎 そのとおりだと思います。また、ドラッカーが「経営学者」と捉えられているところも、一つの誤解なんですよね。経営学者というのは、どうすれば経営がうまくいくかという川下の実践的な部分を研究している人ですが、ドラッカーはそもそも経営とは何か、経営がうまくいっているとしたら、その「うまくいっている」ということはなんなのか、というコンセプトを探っていた。レイヤーがもう一段上なんです。ちなみに、川上さんは『もしイノ』を読んで、どのあたりをおもしろいと思ってくれたのでしょうか。

川上 物語そのものがおもしろいですよね。普通、高校野球の小説と聞いたら、野球をやりたい子たちが集まると思うじゃないですか。でもこの本はそうではない。『もしドラ』を読んでマネジメントをやりたいと思った子たちが集まってくる。で、全員マネージャーになっちゃう(笑)。

岩崎 そう、わりと長い間、マネージャーしか出てこないんです(笑)。

川上 表紙の二人の女の子がいて、一人男の子が増えたと思ったらその子もマネージャー志望。で、また二人女の子が増えて、やっとイケメンの男の子が出てきたから、これはピッチャーか天才バッターかどっちかかと思ったら、そいつも「マネジメントがやりたいんです」と。なんじゃこりゃって。そこからやっと話がスタートする。

岩崎 今回は、話の前提が違うんですよね。どうすれば野球が強くなるか、ということではなく、そのもっと前段の、チームを立ち上げるところから始まるんです。