「予期せぬ成功ほど、イノベーションの機会となるものはない。だが、予期せぬ成功はほとんど無視される。困ったことには存在さえ否定される」(ドラッカー名著集『イノベーションと企業家精神』)
経営者にはビジョンがある。夢もある。技術もあれば、ノウハウもある。そして無事、新製品、新サービスを世に出す。当然買いに来てくれる人をイメージしている。
そこへ想定外の客が現れる。腹が立つ。
しかしドラッカーは、「変な客が来たら、それが本命の客だ」という。予期せぬ客というカモがネギならぬイノベーションを背負ってきたもので、手厚くもてなさなければならない。
ドラッカーの調べたところでは、成功したイノベーションのなかで最も多いケースが、この予期せぬ成功であった。
初めコンピュータは科学計算用として開発された。そこへ事務用としての需要が見つかった。事務用の購入先である企業を真っ先にとらえたのがIBMだった。
当時、技術的にIBMに先行していたユニバックは、企業という予期せぬ客のニーズに応えようとしなかった。精緻な芸術品たるメインフレーム・コンピュータは、給与計算などという俗なもののために開発したのではなかった。
「マネジメントにとって、予期せぬ成功を認めることは容易ではない。勇気が要る。同時に現実を直視する姿勢と、間違っていたと率直に認めるだけの謙虚さがなければならない」(『イノベーションと企業家精神』)