正規社員と非正規社員の二極化が進む日本とは対照的に、イギリスではブレア政権以来、10年以上の長きに渡って「同一価値労働同一賃金」の徹底が順次図られている。パートタイム労働者、有期契約労働者に加えて、来年10月からは一定の就業期間を経た派遣労働者にも正社員との労働条件や社会保障の均等待遇が保障されることになる。彼我の差は大きい。イギリスの労働市場の流動性と柔軟性から日本は何を学べるのか。現地からレポートする。
(ジャーナリスト・大野和基)

 ロンドンを本拠地とする大手会計事務所、プライスウォーターハウスクーパース(PWC)で日本担当のマネジャーを務めるフィオナ・ガーディナーさん(61歳)は30年間フルタイムの正社員として働いてきた。3年前から週3日のパートタイマー、すなわち非正規雇用になったが、給料は週5日のときの5分の3になっただけだ。フィオナさんがフルタイマーからパートタイマーになった理由は、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)だという。

 「自分の趣味を高めるのに、働くのは週3日がちょうどいいのです」

 彼女の場合、趣味は合唱団(聖歌隊)であるが、「収入が5分の3どころか、仮に日本のように激減したならば、家計にかなり影響したから、フルタイマーのままだった」と一瞬の逡巡もなく明言する。

 1歳上の夫のデレックさんはフィオナさんがパートタイマーになりたいと言ったとき、いい考えだと思ったという。

正社員と非正規社員の差別がなくなると何がどう変わるのか――イギリスの労働者視線で見た「同一価値労働同一賃金」の恩恵と日本への教訓フィオナ・ガーディナーさんと夫のデレックさん

 「我々は結婚して40年になりますが、子どももいなかったので、ずっと共稼ぎでした。いつも忙しくして仕事以外の時間がほとんどありませんでした。妻がパートタイマーになったとき、私も仕事のパターンを変え、年に何ヶ月か大学で教えると休みもしばらく取れるという生活パターンに変えました」

 フィオナさんの収入が減ったことに対してデレックさんはこう言う。

 「妻の収入は減りましたが、労働時間に比例して減少したのでフェアだと思います。また、すでに十分な貯蓄があるので、余生を2人で一緒に過ごす時間を増やすために自分たちの意思で時間を買うことを選びました」