Photo:SANKEI
単なる「安全対策の失敗」に
とどまらない高層マンション火災
香港北部の大埔区にある高層マンション群「宏福苑(Wang Fuk Court)」で起きた大規模火災は、少なくとも159人の命を奪い、戦後の香港で最悪規模の都市災害となった。
この大火災については、可燃性建材の使用や工事監督の不備、住民からの警告を無視した対応など、さまざまな構造的問題が指摘されている。さらに、事故直後から国家安全法を持ち出して批判を抑え込もうとする当局の姿勢により、香港社会は一層重苦しい空気に覆われている。
これは単なる「安全対策の失敗」にとどまらない。中国政府が香港の自由を奪い、本土化を進めてきたことで、中国式統治の脆弱(ぜいじゃく)性と国家管理金融システムの欠陥が複雑に絡み合い、災害を招いたのである。
香港はかつて「一国二制度」の下で自由金融のゲートウェイとして機能していたが、いまや中国式の統制金融を世界に押し出すための実験場となっている。その転換が、都市の安全と市民の自由をどのように蝕んできたのか、改めて問い直す必要がある。
「香港最悪の火災」は
なぜ防げなかったのか
2025年11月26日、宏福苑の一棟で外壁改修工事中に火災が発生した。ある一室から発した炎は、足場を伝って瞬く間に上階へと広がった。
この火災のすさまじさは、複数棟が炎に包まれた点にある。国際金融都市の高層マンションでありながら、竹の足場、プラスチック製の防護ネット、発泡スチロール系の断熱材など、旧式で燃えやすい素材が建物全体を覆っていたためだ。
現場には凄惨さだけが残された。外壁は黒く焦げ落ち、部屋は焼けただれ、廊下や階段には住民の遺品が散乱していた。現場近くには即席の献花台が設けられ、宗教も出自も異なる住民たちが線香を手向けた。これは、1948年のゴダウン火災(Wing On倉庫火災)以来の最悪の火災と評されている。







