ここ一番の「放言」で
形勢をひっくり返してきた

 たまたまでしょと思うかもしれないが、おそらくトランプ氏は確信犯的に「逆張り」をしている可能性が高い。

 ロイター通信が世界中の大統領の政権末期の支持率と、その大統領の政策を踏襲する後継者が当選を果たす確率を調査したところ、大統領の支持率が55%以上なければ後継者は当選しないことがわかった。オバマ大統領の支持率は45%前後。この調査結果に照らし合わせると、後継である民主党候補者が当選する可能性はわずか14%にすぎない。

 これはつまり、「不人気大統領」の思想から離れれば離れるほど、有権者の支持が高まるということだ。

 こういう「市場の動向」を知った「取引の天才」はどうするか。オバマ大統領の「逆張り」を徹底的に行うことで、「オバマと最も遠い候補者」というブランディングをするのではないか。

 事実、緻密な戦略があったとしか思えない「放言」もある。

 昨年9月、トランプ氏は同じく共和党の候補者争いをしているジェブ・ブッシュ氏を「大口献金者の操り人形」とバッサリやった。「敵も味方もないんかい」とツッコミたくなるような誹謗中傷だが、実はこの一言で、トランプ氏は不利な状況を一気にひっくり返したのである。

 今回の下馬評では、「州知事経験者が有利」とされていた。オバマ大統領が上院議員を1期しかつとめていないことで、「経験不足」を指摘する声が多く、次期大統領はその反動で歴代米大統領に多くみられる「州知事経験者」に支持が集まるとみられていたのだ。実際に、アメリカの調査機関ピュー・リサーチ・センターが今年3月におこなった世論調査では、共和党支持者の57%が、候補者に必要な資質として「経験と実績」を挙げたていた。政治経験ゼロのトランプ氏にとって「逆風」であることは言うまでもない。

 それが9月の同調査では、「経験と実績」を期待する支持者が29%にガクンと急落。かわりに65%が「新しい考えや異なった手法」を求めた。

 もうお分かりだろう、ジェブ・ブッシュ氏という「プロ政治家」の本質的な弱点をつく「放言」を放ったことで、世論がガラリと変わったのである。トランプ氏の場合は自身がその「大口献金者」として、歴代大統領に莫大な献金していたということはアメリカ人なら誰でも知っている。「放言」とはいえ、説得力は抜群である。