一瀬社長はなぜ
このビジネスモデルに気づいたか

 いずれにせよ「いきなり!ステーキ」のヒットは、このような経済的合理性の視点で生まれたものだった。だが、一瀬社長に話を聞くと、少し意外な面が見えた。この案は、コンサルタントなどから提案を受けたものでなく、自分自身で気づいたものだったという。

 なぜ気づけたのか。最後に一瀬社長はこんな話をした。

「実は、高校を卒業し、コックの修行を始めた日に、忘れられない思い出があるんです」

 彼は先輩から、入社記念に「好きな物食べていいよ」と優しい言葉をかけられ「ビフテキが食べたい!」と言った。しかし先輩は、あとで何か理由をつけ、一瀬氏にポークソテーを振る舞った。時は昭和35年、メニューを見れば、ビフテキは一瀬氏の初任給と同じ額だった。さすがに、これは振る舞えなかったのだ。

「もちろんポークソテーも、貧乏だった私には目が飛び出るほど旨かったですよ。でも、やっぱりビフテキが食べたくて、私はあとで、捨ててしまう牛肉の脂身を焼いて、口にしました。『うまい、うまいなぁ』と思って、でも言葉にならなかったことを覚えています。『旨い肉をたらふく食べてほしい』。これが私の商売の原点なんです」

 そんな思いがあって、初めて気づけたニーズだったのかもしれない。