東京は「都」だから、「県」民性などそもそもありえない、というのは冗談だが、21世紀の今、ローカリティに満ちた気質はやはり存在しないと言ったほうが正解のように思える。たしかに、古くから甲信越、あるいは北関東や東北地方南部の出身者が多いのは事実である。だからといって、そうした地域の人たちの気質が目立つのかというと、そうでもないのだ。あえて言えば、首都に暮らすことによるプライドくらいだろう。だが、それとて京都人に比べれば、〝かわいい〟ものである。

 東京人の場合、「気質」というより「体質」のほうが際立っている。朝の殺人的なラッシュ、息が詰まるような盛り場の喧騒、排気ガスをたっぷり含んだ空気、ヒートアイランド現象による夏のむせかえるような暑さなど、ハンパな体力では生き抜くことができないことばかりである。全国広しといえども、これだけタフな環境はないだろう。そうしたところで暮らしているというだけで尊敬に値するのではないか。

「江戸っ子」の職人気質を思わせる頑固さ
一方でカラッとした気風のよさも

 しかし、それ以上にタフであることが要求されるのはメンタルな面である。首都となれば当然、そこで活動する人たちの出身地も、地元東京はもちろん、すべての道府県にわたる可能性がある。もちろん、東京に長くいれば、それぞれの鋭角的な部分はそぎ落とされ、丸くなっているだろう。

 それでも、商談相手の一方を気分よくさせたり舞い上がらせたりする話が、もう一方をへこませたり不愉快にさせたりとか、昼と夜とで、相反する県民性を持つ人と接するなどということもありうる。そんなことまで考えに入れておく必要があるのは、東京のビジネスマンだけと言っていい。しかし、これはかなりのストレスである。

 唯一、いわゆる下町エリアに長く暮らす人たちを相手にするときだけはそこまで気遣わなくてもいいかもしれない。俗にいう「江戸っ子」、つまり職人気質を思わせる頑固さはあるものの、カラッとした気風のよさが大きな特徴である。そうした人との付き合いは、ある意味で楽だろう。首都でビジネスをすることは誇らしくはあっても、ことほどさように大変なのである。


◆東京都データ◆県庁所在地:新宿区/都知事:石原慎太郎/人口:1299万3440人(H21年)/面積:2187平方キロメートル/農業産出額:280億円(H19年)/県の木:イチョウ/県の花:ソメイヨシノ/県の鳥:ユリカモメ

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