このように考えれば、単に再び賃金抑制モードに戻るのではなく、事業構造転換への取り組みを宣言し、賃上げスタンスを維持することで従業員のモチベーションを喚起しつつ、不採算事業を整理して働き手を収益事業にシフトさせていくべきであろう。外部環境が悪化して危機感の高まる状況こそ、量より質の経営への転換を行うチャンスだと捉えるべきではないか。

提言1:縮小均衡から脱出するため
ベア1%の数年内達成を目標に妥結せよ

 以上の認識に立って、2016年春季労使交渉の課題として、3点を提言したい。

 第1は、ベアの1%程度の数年以内達成を目標に妥結を目指すことだ。縮小均衡からの脱出には、「生産性向上の後にそれに見合った賃上げを行う」という発想ではなく、「拡大均衡が実現している経済状況に整合的な賃上げを行い、それをきっかけに持続的賃上げを可能とする事業構造の構築につなげる」という発想が必要になる。差し当たり名目成長率2%の安定的な達成を目指すとすれば、理屈の上では、経済全体の平均で見てベア相当分を1%程度で妥結することが望ましい(注)

 もっとも、昨年実績は主要企業ベースで0.6%程度であり、業績悪化懸念の強い今年に1%実現は現実には難しいだろう。しかし、「数年以内の1%達成」で労使が国民経済レベルで合意し、その実現に向けて主要企業が率先して取り組む姿勢を示すことが望まれる。

 なお、ここでいう賃上げ率(ベア相当分)は、非正規も含めた全従業員の基本給の平均増加率であり、正確には「ファンドアップ」とでもいうべきものである。1%のファンドアップを確保したうえで、必ずしも労働者に一律に配分するのではなく、(1)就業形態間の賃金格差是正、(2)物価上昇による賃金目減り分の底上げ、(3)賃金カーブのゆがみの是正、といった要素につき、個別労使が交渉して配分を決めるべきである。

(注)労働分配率を一定とすれば、名目成長率2%と整合的な雇用者報酬(人件費総額)の伸び率は同じ2%。一人当たり平均賃金伸び率を、雇用者報酬伸び率から雇用者数伸び率を控除して計算すると、2%-0.25%=1.75%。ここで、近年、パート比率の上昇によって平均賃金が押し下げられていることを踏まえ、今後もその状況が続くとすれば、(定昇を除く)労働者個人ベースで見た賃金伸び率(正社員・非正社員問わず)は、パート比率上昇の下押し作用分を上乗せして、1.75%+0.51%=2.3%。さらに、近年、現金給与総額は所定内給与の2.14倍程度伸びている(所定外手当や一時金の影響)ことからすれば、名目成長率2%達成に整合的なベア相当分は、2.3%÷2.14%=1.1%。