庭には赤や黄色の花が咲き、田園地帯に紛れ込んだよう。室内に入ると、大きな木のテーブルにYチェアが並んでいる。背もたれがY字型なので、ワイチェアと呼ばれる椅子は、ハンス・ウェグナーがデザインした世界的に名高い作品だ。センスの良さが椅子ひとつでよく分かる。

 テーブルの前にはレンジやシンクを組み込んだオープンキッチン。周囲からすぐに手を伸ばして湯を沸かし、食器を洗い、包丁を使うことができる。2階は吹き抜け構造で、階段を上りながら建物内の全体が見通せる。

室内はオープンキッチン(エジンバラ)
吹き抜けの室内(エジンバラ)

 大きな窓越しに庭もよく見える。赤や青など色鮮やかなクッション、白いソファなど普通のお洒落な家庭に来たようだ。来訪者の緊張を和らげ、自宅にいるようなくつろいだ雰囲気の中で、重い話題をできるだけ話しやすくさせようという心配りが感じられる。

がん患者の「自分の取り戻す場所」に

 ここは、建築評論家で大学教授でもあったチャールズ・ジェンクスさん(76歳)が1996年に建てた。妻の造園家、マギー・ケズウィック・ジェンクスさんが47歳で乳がんを患い、医療機関では悩みを十分に打ち明けられないままに7年後の1995年に亡くなった。

 医師から「余命数ヵ月」と告げられた時に大きなショックを受けた。次の患者が多く、詳しい説明を受けないまま帰宅せざるを得なかった。その時に、がん患者のために専門家のいる居場所が欲しいと考え、病院の敷地内の小屋を借りて始めた。建物の完成前に亡くなり、夫のチャールズさんが遺志を引き継いで竣工した。

「自分を取り戻す場所が欲しい」と妻からたびたび聞いていたこともチャールズさんの背中を押した。妻の思いがかなったのが「マギーズ・センター」である。正式には「マギーズ・キャンサー・ケアリングセンター」。「マギーさんの家」と言っていいだろう。玄関前には、マギーさん自身のほぼ等身大の彫刻が置かれ、来訪者を迎えている。

「話を聞いてもらいたい人は、予約なしでいつでも来られます。もちろん無料で」と案内してくれたイボンヌ・マッキントッシュさん。同じ敷地内の病院に勤めていたが、マギーさんの考えに共鳴して活動を始めたという。

 がんの種類やその進行度の如何を問わずに誰でも来ていい。ストレスや苦痛、不安を和らげるカウンセリングや栄養、運動の指導を受けられる。医療制度や助成金の仕組みなどの情報も得られる。医師から受けた難解な医療用語についても分かりやすく説明も求めることもできる。

 来訪者は1日に100人近い。いろいろな人が来る。「のんびりお茶だけ飲んで帰ったり、パンフレットを持ち帰るだけの方もいます」。好きなように過ごしていい。家庭的な雰囲気だから、自然にゆったりした気持ちになるのだろう。病院の血液検査を待ちながらの患者も、時には弁当持参の人も。