あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか 論理思考のシンプルな本質』著者・津田久資氏の対談シリーズ第4弾。

イェール大学助教授のポストを捨て、話題注目の中高生向け英語塾「J Prep斉藤塾」を起業した斉藤淳氏との対談もいよいよラスト。

著書『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』などで日本人の英語学習の変革を訴えてきた斉藤氏だが、その背景には「思考力」の養成に関わるより深い問題意識があるという。

イェール大学の入試では「推薦状」の存在が大きなウェイトを占めている。日本のペーパーテスト文化と対照をなすこの特徴は、どのような考え方に由来しているのか? 「思考力×教育」対談最終回!!

(構成 高関進/写真 宇佐見利明/聞き手 藤田悠)

周りの学生にいい影響を与える学生が求められている

――前回までは英語力と国語力の関係といったテーマから、東大の推薦入試などについて触れていただきました。以前、鈴木寛さんとの対談でも入試改革の話が出てきましたが、斉藤先生はそのあたりについてはいかがでしょう?

 

▼前回までの対談▼
「英語ができない人」の共通点は○○がわかっていないことだった
 — 思考力と教育をめぐる対談【第1回】

東大「推薦入試」に込められた本当の意図とは?
 — 思考力と教育をめぐる対談【第2回】

斉藤淳(さいとう じゅん)英語塾「J Prep斉藤塾」代表。元イェール大学助教授。元衆議院議員(2002-03年、山形4区)。
1969年、山形県生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業、イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D. 政治学)。ウェズリアン大学客員助教授、フランクリン・マーシャル大学助教授を経て、イェール大学助教授、高麗大学客員教授を歴任。イェール大学助教授時代は、セイブルック寮の舎監も務め、3年間にわたって学生たちと寝食をともに過ごす。
2012年、アメリカより帰国し、中学・高校生向けの英語塾を起業。「自由に生きるための学問」を理念に、第二言語習得法の知見を最大限に活かした効率的なカリキュラムで、生徒たちの英語力を高め続けている。
研究者としての専門分野は日本政治・比較政治経済学。主著『自民党長期政権の政治経済学』により、第54回日経・経済図書文化賞、第2回政策分析ネットワーク賞(本賞)を受賞。TBSラジオで選挙解説なども担当。
主な著書に『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』(KADOKAWA)、『10歳から身につく問い、考え、表現する力―僕がイェール大で学び、教えたいこと』(NHK出版新書)などがある。

【斉藤淳(以下、斉藤)】英語については入試改革を境に、スピーキング力が問われるようになります。これに対応する形で、学校や塾のカリキュラムが改まって、応用言語学的にまっとうな教え方がおそらく普及していくのではないかと期待しています。

ただ、試験はしょせん試験なんですよ。

イェールの入試と東大の入試が端的にどう違うかというと、受験生本人が書く志望動機書と、学校の先生が書く推薦状。学力を重視する点では本質的には両者とも同じです。

志望動機書は、自分は「なぜ」学ぶかを書きます。推薦状に何を書くかというと、試験の点数では測れない、数量化が難しい生徒の「知的体力」についてです。

なぜそのような入試の仕組みになっているかというと、アメリカの大学で教鞭をとっている先生たちは、「周りの学生にいい刺激を与える学生に入ってきてほしい」と考えているからです。アメリカの大学では、「学びの共同体」を構成することで、ただ授業を行うだけでは提供できない付加価値を提供していくという考え方があります。さまざまな人脈だったり、最先端の研究者とのミーティングだったり、学生寮での生活だったり……。

【津田久資(以下、津田)】それって日本の旧制高校に近いですよね。

【斉藤】そうなんです! そして、生徒一人一人の価値は、テストの点数だけではわからない。だから推薦状では、「この学生は世界史の授業でこういった質問をして授業を盛り上げた」といった具体的なエピソードが盛り込まれたりします。大学側はその生徒にまつわるストーリーが知りたいんです。