『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか ― 論理思考のシンプルな本質』の対談シリーズ第4弾。
今回からは、イェール大学助教授のポストを捨て、中高生向け英語塾「J Prep斉藤塾」を起業した斉藤淳氏との対談を全3回にわたってお送りする。
著書『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』などで日本人の英語学習の変革を訴えてきた斉藤氏だが、その背景には「思考力」の養成に関わるより深い問題意識があるという。
語学習得にも影響を与えている日本人の「思考力の弱さ」は、いったいどこに由来しているのか? 「思考力×教育」対談第1回!!
(構成 高関進/写真 宇佐見利明/聞き手 藤田悠)
日本の教育が育てきれていない力とは?
――本日はよろしくお願いします! 数年前にお話を伺ったとき、J Prep斉藤塾では、米国のアイビーリーグ校などの入試を受ける子どもたちだけでなく、全生徒に「論文指導」もしているとのことでした。生徒を教えていて、何か気づいたことなどはありますか?
1969年、山形県生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業、イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D. 政治学)。ウェズリアン大学客員助教授、フランクリン・マーシャル大学助教授を経て、イェール大学助教授、高麗大学客員教授を歴任。イェール大学助教授時代は、セイブルック寮の舎監も務め、3年間にわたって学生たちと寝食をともに過ごす。
2012年、アメリカより帰国し、中学・高校生向けの英語塾を起業。「自由に生きるための学問」を理念に、第二言語習得法の知見を最大限に活かした効率的なカリキュラムで、生徒たちの英語力を高め続けている。
研究者としての専門分野は日本政治・比較政治経済学。主著『自民党長期政権の政治経済学』により、第54回日経・経済図書文化賞、第2回政策分析ネットワーク賞(本賞)を受賞。TBSラジオで選挙解説なども担当。
主な著書に『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』(KADOKAWA)、『10歳から身につく 問い、考え、表現する力―僕がイェール大で学び、教えたいこと』(NHK出版新書)などがある。
【斉藤淳(以下、斉藤)】当初から、都内の有名校に通う子たちだけでなく、公立校の生徒も通ってきています。私自身は週の半分を山形で過ごし、地元の学校に通う生徒を教えています。そうしたなかでやはり気づくのは、日本の学校で「すごく優秀」とされている子でも、論文や自己分析、エッセイを書けない子が圧倒的に多いことです。5教科のお勉強はすごくできるけれど、文章が書けないというパターンです。
【津田久資(以下、津田)】それはどうしてだと思いますか?
【斉藤】「優秀」の定義が違うんだと思いますね。日本の受験勉強って、基本的にはアジェンダが設定された中での競争ですから、「自らアジェンダをつくり出していく能力」は試されません。一方、米国の大学入試に必要な「論文やエッセイ」では、そういう力が問われています。
受験勉強に取り組むことで、ある意味、事務処理能力はつくのかもしれませんが、自分で仮説を設定し、検証していく力、つまり「アジェンダの設定力」は養われませんよね。
ビジネスの世界でも学問の世界でも、これから益々重要になっていくのはアジェンダ設定力、あるいはルールを設定する力です。それなのに、日本の受験勉強というのはそれを素通りしたところで点数を比べている。ここに限界があるのかなと思っています。
【津田】アジェンタの設定力ということでいえば、ハーバードのビジネススクールなんかでは、いわゆる座学のレクチャーというのがなくて、ケーススタディしかやらないと聞いたことがあります。「お勉強」ではなくて、考えさせる。
一方で、ハーバードですら「ケース」そのものは先生が用意してくれているわけで、純粋にゼロベースでアジェンダをつくっているわけではありませんが……。
【斉藤】そうなんですよ。津田さんが『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか』で繰り返し強調しているように、「クリエイティブであること」って「ゼロから何かつくること」と同じではないんだと思います。
人類の壮大な文明の長い流れの中で、ちょっと味付けを変えるだけで大きな付加価値を生み出す場合がある。ただ、その少しを変えるだけでも、ものすごく深く考える力が必要だということが、理解されていない。