いい問いかけをするのは正解を語るより難しい

【斉藤】今までAO入試は、正直、日本では機能してきませんでした。「AO」が「青田買い」入試と言われるくらいで、一般入試の枠を絞って偏差値を吊り上げる手段として大学が悪用してきたとしか思えない事例もあります。

「いくら推薦入試・AO入試を導入しても、今の授業スタイルでは学校の先生がいい推薦状を書けない」(斉藤氏)

そういうわけで僕は日本でこれまで行われてきたAO入試をあまり評価していません。ただアメリカ型AO入試は、これからの教育のあり方を考えるうえで無視できないと思います。

入試改革が機能するためにはそもそも、学校側もいい推薦状が書ける授業をしないといけない

今、首都圏の進学校では英語の授業でディスカッションはおろか音読すらさせないとか、世界史の授業でも第一次世界大戦はなぜ起こったか議論すらせず先生の講義だけとかいう学校が多数です。「第一次大戦はなぜ起こりましたか?」「セルビアの青年がオーストリアの皇太子を撃ったから」以上!というような感じです。

【津田】第一次も第二次も、結局連続性があるわけですからね。

「基礎知識のインプットはオンライン、ディスカッションや思考力のトレーニングは教室、というように『棲み分け』が進んでいくのではないか」(斉藤氏)

【斉藤】そうなんです。今はストーリーのない歴史の学び方をしているわけです。だから「授業中にこういうブリリアントな質問をした」というようなストーリーが書ける推薦状、そのストーリーが評価される入試になれば、高校の授業が双方向のディスカッションを重視するものに変わっていくでしょう。

そういう意味で、僕は今回の入試改革は比較的好意的に見ています。そうなると、オンライン講義を切り売りする学習塾と、教室でライブのディスカッションを重視する学校教育というように「棲み分け」「分業」が成立していくことになるはずです。

【津田】でもおそらく今「第一次世界大戦がなぜ起こったか?」というディスカッションをしろと言ったら、「有識者の見解を知らないから答えられない」と思っちゃう先生も多いでしょうね。

【斉藤】そうなんですよ。「あの本にこう書いてあった」って講義して終わりかもしれないんですよ。

【津田】だから今は、本当に誰も考えたことがないような質問を出さないと、おそらく日本だと機能しないでしょうね。