家電・PCの売却によるBtoCビジネスからの撤退を構造改革の柱とした東芝。同社が目指すコアコンピタンス経営に漂う不安を斬る
Photo:Rodrigo Reyes Marin/AFLO

『サザエさん』CM協力継続でも
笑いが起きぬ東芝会見の深刻さ

「サザエさんなどの(CMの)協力は引き続き行いたいと考えています」

 3月18日に行われた、東芝の事業計画説明会でのこと。家電・PCを売却、分社し、BtoC(民生向け)ビジネスからの撤退を構造改革の柱とした東芝の事業計画に対して、出席していた記者から、今後の広告宣伝方針について尋ねられた室町社長の回答である。

 緊張した場に場違いな『サザエさん』というフレーズ。記者がクスリと笑ってもおかしくないシーンにもかかわらず、笑い声どころか聞く方と応える方のどちらからも、笑みすら出なかった。それだけ深刻な事態ということだろう。

 東芝の不正会計処理は、トップマネジメント間の足の引っ張り合いからリークが行われたという話も聞こえてくるが、この不正会計が東芝を存亡の危機に追い込み、キヤノンへのメディカル事業の売却、中国美的(ミディア)集団への白物家電の売却、PC事業の他社との再編、売却を視野に入れた分社化など、次々と事業の切り売りを余儀なくされている。台湾鴻海傘下入りの方向で調整を進めているシャープや、経営状況が好転してきたパナソニック、ソニーも含めて、家電各社はリストラや事業の売却など、現場に痛みの伴う改革を行ってきた。

 各社は2000年代半ばから海外事業の不調や、エコポイント制度による利益の先取りによって急速に収益性が悪化し、同時多発的に経営悪化に陥った。それぞれ細かな違いはあるものの、現場の技術力、開発力が落ちたわけではない。日本のかつての「勝ちパターン」が有効ではなくなった競争環境の変化に対応できなかったことが、家電産業凋落の要因であり、これは技術の問題ではなく経営の問題である。

 しかし、長い間、日本のエレクトロニクス企業のトップは、「技術力で経営回復」という方針を掲げ、ものの見事に失敗の上塗りをしている。繰り返すが、問題の所在は技術そのものではなく、技術を経営のツールとして収益に結びつける経営者の意思決定にあるのだ。しかし、そのツケはいつもリストラや構造改革の名の下、現場のエンジニアが払わされている。