飲食店の予約/顧客台帳サービスとしてNo.1のシェアを誇る株式会社トレタの代表・中村仁氏に、飲食店向けのお勧めのITサービスを選び、解説してもらう連載の第2回。今回からついに具体的なITサービスの紹介に入ります。
飲食店向けのITサービスの威力を分かりやすくお伝えするために、構成はお馴染みの「ビフォー・アフター」としました。いま、恵比寿でも屈指の人気を誇る寿司店の店主が、かつて陥っていた「予約を理由とした苦しみ」とはどのようなものだったのでしょうか。(構成:谷山宏典 写真:疋田千里)
20社が参入している「予約・顧客管理システム」
それでは今回から、飲食店関係者の皆さんの仕事を大きく変える、具体的なITサービスをご紹介していきます。
最初に紹介するのは「予約・顧客管理システム」です。
これまで多くの飲食店では、お客さんからの予約が入ると紙のノートやカレンダーなどに顧客の名前、来店日時、電話番号などを書き込んで予約管理をしていました。しかし、パソコンやスマートデバイスを通じて予約台帳システムを使用することで、以下のようなメリットがあります。
■手書きにおける書き間違い、読み間違いなどを防止できる。
■予約情報の記入漏れや転記ミス、ダブルブッキングなどのトラブルを予防できる。
■配席の「パズル」が解きやすくなって、席の回転効率を向上できる。
■複数の店舗間、店舗と本部間でリアルタイムに最新の予約状況を共有できるようになり、予約対応や管理を飛躍的に効率化できる。
■入力された予約・顧客情報はそのままクラウドに蓄積されるため、顧客情報の管理が容易になり、全てのスタッフ間で顧客情報を共有できるようになる。
■オンライン予約と連動させれば、営業時間外やピークタイムで電話が取れないときにも予約を受け付けることができて、集客力をアップさせることができる。
予約台帳システムには、私の会社が提供する「トレタ」のほか、「OpenTable」「ebica」など、およそ20社が参入しているのですが、トレタは契約店舗数でトップシェアを占めています。そこで少々手前味噌にはなりますが、このカテゴリではトレタとその導入店の事例を紹介させていただこうと思います。
トレタは、2013年12月にサービスを開始しました。
開発のきっかけは、私自身が飲食店を経営していたとき、日々の業務の中で予約の管理が特に大きな負担だったため、「予約情報を簡単・便利に管理できるサービスがあれば、多くの飲食店の方に喜んで使っていただけるのではないか」と考えたことにあります。
基本機能として、予約を時間軸で管理できる「タイムテーブル機能」、予約を店舗のレイアウトで管理できる「テーブルレイアウト機能」、顧客からの要望を手書きメモで残せる「手書きメモ」、予約受け付け中の担当者の受け答えを自動的に録音できる「音声録音」、予約一覧画面からワンタッチでテーブルの移動や予約開始/終了時間の変更ができる「ワンタッチテーブル変更/予約時間変更」、店舗ごとに専用のウェブ予約ページを設置する「ウェブ予約ページかんたん設置」などを搭載しています。
開発にあたっては、機能の強化にも力を入れていますが、それ以上に「現場の人たちの使い勝手」を重視しており、誰もが迷わず使いこなせる機能とデザインに徹底的にこだわっています。そこがトレタの強みであり、ユーザーの皆様に評価をいただいている理由だろうと、私たちは考えています。
料金は1店舗あたり月額1万2000円で、端末数とユーザー数は無制限。iPadをお持ちでないお客様には、iPad付のプランも用意しています。
現在の導入店舗数は5400店舗を超えています。そして、そのうちの1店がこれからご紹介する『鮨竹半 若槻』さんとなります。
トレタ導入店『鮨竹半 若槻』
「わかっているのにやりきれない」ことへのストレス
東京の恵比寿駅から徒歩5分、飲食店がひしめく一角に『鮨竹半 若槻』はあります。まずは店舗概要を確認しましょう。
■業態:寿司
■坪数:30坪
■席数:17席(カウンター10席+テーブル7席)
■営業時間:昼の部 火・木・土曜11:30~13:30(L.O.)/夜の部 月~土曜17:30~22:00/定休日は日曜・祝日、月・水・金曜ランチタイム
■従業員数:5名
■客単価:1万円~1万5000円
■系列店数:なし
店主の若槻剛史さんが、地元島根で寿司屋に修行に入ったが16歳のとき。26歳で上京し、今の店の前身である『鮨竹半』で働きはじめます。先代の店主が亡くなったあと、2013年に2代目として店を継ぎ、それを機に店名も『鮨竹半 若槻』と改めました。
現在39歳。これまで板前一筋で生きてきたため、最先端のテクノロジーに触れる機会はほとんどなく、「ITのことはあまり得意ではない」といいます。
トレタ導入以前、予約台帳はずっと紙のノートを使っていたそうです。
予約の受け付けは、ほかの従業員には任せず、店主である若槻さんが自ら行なっていました(その理由は後述します)。細心の注意を払って管理をしていましたが、過去には何度か、記入漏れなどが原因でダブルブッキングをしてしまったこともありました。
若槻「ありがたいことに、記念日や商談などの大切な席でうちの店を使っていただく機会も多いのですが、そんなときにこちらのミスで席がなかったとしたら、謝るだけではすみませんよね。実際、ダブルブッキングで席のご用意ができず、お客様のご自宅まで予約のお断りと謝罪にうかがったこともあります。いただいたご予約を正確に把握できているかどうか、席をちゃんとご用意できているかどうか、には毎日本当に神経を使ってきました。予約のことがいつも頭から離れない状態だったんです」
一方、顧客情報の管理については、6年前にパソコンのシステムを導入しています。それは、あらかじめ顧客情報を入力しておけば、連動した電話に着信があったときにお客さんの名前が表示されるというシステムでした。ただし、50万円ほどの費用をかけて導入したものの、使い勝手は必ずしもよくはなく、店の経営にも十分に活用できていませんでした。
若槻「顧客情報を入力したり、情報を出すときには、いちいちパソコンを立ち上げなければなりませんでした。ですから、電話で予約を受けたあと、パソコンを立ち上げ、前回来店時に召し上がったものなどを確認し、その情報を紙の予約台帳に書き写すという手間のかかることをしていました。また、営業時間中に常連さんが予約なしでご来店された場合、つけ場(寿司屋の調理場)を離れてパソコンを見にいくわけにもいかないので、せっかくの顧客情報を接客に活かしきれていませんでした」
話を聞くかぎり、当時の『鮨竹半 若槻』に決定的な問題点があったわけではないと思います。しかし、「お客様に最高の寿司と最高のサービスを味わってもらいたい」と切実に願う若槻さんにとっては、「やるべきことはわかっているのに、やりきれていない」という状態には相当な不満やストレスがあったようです。
ここで若槻さんが「やりきれていない」と感じていたことを整理してみます。
1.予約業務に対応するため、サービスに集中できない
常連客のネタやお酒の好み、食事の仕方、いつも座る席などの情報は若槻さんの頭の中、もしくは若槻さんだけが操作できるパソコンのシステムの中に入っていたため、予約を取れるのは若槻さんのみ。そのため、営業中ほかのお客さんをもてなしているときに予約の電話が入ると、電話対応をしたり、従業員に指示を出したりするため、いったん目の前のお客さんへのサービスを中断しなければなりませんでした。そうした予約業務にいつでも対応できるようにするため、5分の間ですらつけ場を離れられなかったそうです。
また、受け付けた予約内容をノートに書き写すのを忘れてしまうこともありました。
2.当日の予約が入ると、理想の配席が組めない
顧客のうち4割ぐらいが常連客で、彼らにはそれぞれ「来店したら必ずここに座る」という好みの席があり、さらに好みの席の予約が重複した場合はどの常連客を優先するのかも細かな気配りが必要です。そのため、常連客からの予約が入ったときには、毎回パズルのように座席の振り分けをすることが若槻さんの重要な仕事でした。ただ、開店直前や営業中にその日の予約が入った場合、紙の予約台帳上ですべての配席をいちから組み替えることが困難なため、結局空いている席に我慢して座ってもらうという中途半端な配席になっていました。
3.自分以外が接客した顧客の情報を把握しきれない
店のつけ場には、若槻さんのほか、もう1人従業員が入り、2人体制で寿司を握っています。若槻さんの近くのカウンター席にはたいてい常連客が座り、新規のお客さんはもう一人の従業員の前に座るのですが、その新規客が2回目、3回目に来店して若槻さんの前に座ったとき、若槻さんの中にはそのお客さんに関する情報がないため、十分なおもてなしができないでいました。
若槻さんによれば、こうした状況が2015年5月にトレタを導入して以降、劇的に改善されていったそうです。その変わりぶりは、次回のAfter編にてご紹介します。
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