政治家・菅直人最大のテーマは「財務省解体」であり、その集大成が「国家戦略局構想」である(第41回)。しかし、権力を得るために財務省にすり寄って参院選で「ありえない敗北」を喫した菅首相は、自らの政治的原点に戻ることなく国家戦略局構想を事実上断念した。「国家戦略室」から予算編成の調整機能を外したのだ。その結果は、予算編成過程の大混乱だろう。

内閣の総合調整機能を
破壊しただけの蛮行

 菅政権は、予算編成の基本方針作りと省庁間の調整機能を担う新しい組織を内閣官房内に設置して、政治主導を強化するという。しかし、この新組織の実態は国家戦略室となにも変わらない。

 設置する場所を内閣府から内閣官房に移しただけで、仙谷由人官房長官(鳩山内閣の国家戦略相)、古川元久官房副長官(同、国家戦略担当の内閣府副大臣)が引き続き担当する。法改正をともなわない組織で、新組織でスタッフの質量が強化されることもない。

 唯一の違いは、玄葉光一郎政調会長(公務員制度改革担当相)が新組織に加わることだ。予算編成に政府・民主党政調会が一体で取り組むことを狙ったものだが、業界団体の受け皿である政調会に、歳出増の防波堤になれというのは無理がある。今後、業界団体と接触が増えていったとき、政調会が一線を画していられず、圧力機関と化す懸念はある。

 鳩山政権の政調会廃止は、議員の活動を制限する、いわゆる「小沢支配」と批判されたが、一定の意義はあったと考える。民主党にも55年体制下で補助金獲得を行ったベテランなど「族議員」が存在しており、政調会の廃止によって彼らが予算獲得に奔走するのを防げたからだ。

 政調会の復活は、民主党内の族議員を消滅させた後であるべきで、時期尚早である。思いのほか早く復活した政調会が、業界団体の圧力に抗して予算の無駄削減に取り組めるとは考え難いのだ。

 予算編成の調整機能を担う機関は、業界団体と族議員から超然とした存在であるべきだ。法的権限を持たず、業界の受け皿・政調会を一体化した組織では、むしろ調整機能を崩壊させてしまうだろう。