300万の利益があっても…。
税金の存在に絶望する
このような背景から初年度、青山さんから三〇〇万円の利益が出たと聞いたときに、「よかった」と喜びました。「三〇〇万円なら、一〇〇〇万円は三年で返せる。よかった。三年間なんとしてもがんばって、早く返そう」と思いました。
当然、私はお金そのものは見ていません。現金なんかあるわけがない。皆さんもご存じのように、それは在庫になったり売掛金になったりしています。
そのときに、青山さんと西枝さんと次のような話をしました。
「借りている一〇〇〇万円、早く返さなければならないと思っていたら、三年で返せそうなので、よかった」
「あんた、何を言うとるんや。三〇〇万円の利益が出たのは税引前であって、税金を納めなあかん」
「税金って、なんぼ払うんですか」
「半分の一五〇万円が税金や」
「そんな。一〇〇〇万円も借り入れがあって、今から三年かけてやっと返せるか、返せんかというのに、何で税金をとられるんですか」
「そらあんた、もうかったからや」
「もうかっても借金があるじゃありませんか」
借金と損益の区別もつかない、それが当時の私でした。
「借金を全部返し終わってから、おまえはもうかったから税金をとると言われるのならわかるけれども、借金があるのに税金をとられるなんて、そんなばかな。国というのは何の手伝いもしないで金だけ巻き上げる。それも即金で巻き上げる」
当時、ものを売っても、売掛残になったものは手形でもらっていました。
「売上は手形でもらうのに、税金は現金で召し上げる。とんでもない話だ」
「そんなことを言うのは、あんたが何もわかっておらんからや」
結局は一五〇万円しか残りません。さらにその一五〇万円から、非常勤を含めた役員の人たちに、少しボーナスを出してあげましょう、そして三〇〇万円の資本金を出してくれた人たちにも一割配当ぐらいは、お礼として当然すべきです、となったわけです。資本金三〇〇万円の一割の配当ですから三〇万円です。さらにボーナスを出すと、都合五〇万円ぐらいが消えてなくなり、後は一〇〇万円しか残りません。一〇〇万円だったら、一〇〇〇万円返すのに一〇年もかかってしまいます。
当時はセラミックスのプレスに自動機なんてありませんから、毎日、朝から晩までハンドプレスをまわさなければならず、伊藤会長は、ポパイみたいに腕がふくれ上がって筋骨隆々になったほどでした。そんな古い設備を使っているため、新たに設備投資をしなければならないのに、借金の返済にすら一〇年間かかります。二回目の投資をするまでにまだ一〇年かかると思ったのです。私の頭は、そういう悩みでいっぱいでした。