「借金を返すために、
利益率を上げる」という発想

 そこで、西枝さんに相談しました。

「こんなことをしていたら、会社が大きくなるわけなんてないじゃありませんか。一〇〇万円しか残らなかったからと、一〇〇万円を銀行に返していったって一〇年もかかります。やっと一〇年かけて返し終わった頃には、今の設備なんか、一〇年ももちはしないと思いますが、もったとしても、完全に陳腐化しています。そしたら一〇年後、また借金をしてそれをとり替えなければなりません。この調子でいくと会社が将来どうなっていくかわからないじゃないですか」と言いました。

 すると、西枝さんはカラカラと笑って言われました。

「あんた、何を言うとるのや。あんたが今一生懸命にがんばって、税引前で一割の利益が出たんだから、この事業は有望だということなんですよ。一〇〇〇万円を借りてあげたけれども、一〇〇〇万円の金利も払った上に一割の利益が出たんだから、それだけの力があることになる。もっと設備投資をして売上が増えるのだったら、銀行からさらに金を借りてきて投資をすればいいんですよ」

「それじゃ、返すより借りる金が増えて、どんどん借金が増えていくじゃありませんか」

「そう、それが事業というものです」

「そんなことは恐くてできません。最初の一〇〇〇万円でも、ご迷惑をかけたらたいへんなことだと思っているのに、そんなことできやしません」

「あなたは、良い技術屋であっても、良い経営者にはなれんな。一〇〇〇万円借りたから返さなければいかん、とばかり言っていては、会社が大きくなるはずがありません」

「私はどうすればよいのでしょうか。どうしてソニーや、本田技研は、あんなに大きくなったんでしょう。何か良い方法があるはずです。私の今の考え方では絶対に伸びるはずがないので、何か良い方法があるはずです」

「事業家というのはみんな、他人のお金を借りて設備投資し、大きくなっていくのです。金利を返し、償却ができさえすれば、金を借りることは決して恥でもなければ悪いことでもないんですよ」

 西枝さんはそう言われるのですが、私は経営の常識も何ももっていませんから、とにかく借金をすることだけは困ると思っていたわけです。今だったら、その説明を受けたら、「よくわかりました」と納得すると思うのですが、当時は常識をもっていませんから納得できない。それはどうも危険な気がして、私はやっぱり返そうと思ったわけです。

 そのときに、はっと気がつきました。

「そうか、税引前利益で一割の三〇〇万円の利益が出た。その半分の一五〇万円は税金にとられる。あとの五〇万円は賞与やら配当やらで消えて、一〇〇万円しか残らなかった。私は最初、三〇〇万円の利益が出たと聞いたから三年で返せるなと思ったのだが、それは税引前利益なので半分は税金でとられる。ならば、税引後で三〇〇万円残れば、三年で返せるんだ」

高収益企業への道筋が見えた瞬間(写真はイメージです)

 そう気づいたことが、京セラの高収益経営の発想の原点なのです。会社が始まったときに、二〇%ぐらいの税引前利益率を出そうと思った。二〇%が可能とか、不可能とかという問題ではありません。必要だから、そう思ったわけです。