富士フイルム、GE、IBMは時代に合わせて
事業ドメインを切り替える

 織田信長が根拠地を四回も変えたことは、どのような効果があったのでしょうか。一つには天下統一への重要エリアへのアクセスや支配力の強化が可能になったこと、二つ目は部下が物事を考える視点を転換できたことがあげられます。

 那古野城にもし信長の根拠地があり続ければ、京都や関西、四国中国地方の騒乱に対して即時介入はできず、家臣も天下を狙う集団だと自己認識しなかったかもしれません。

 根拠地の移動は、本社所在地だけでなく、事業領域の軸足の変化にも例えられます。ビジネスでは「事業ドメイン」(=事業の展開領域)という言葉がよく使われますが、ビジネスを行う領域を計画的に変化させて、新たな成長市場へアクセスするためドメイン移行が行われます。

 次の3社は特に有名な事業ドメインの移行例でしょう。

富士フイルム
 傘下の富山化学工業がエボラ出血熱に効果のある未承認薬を持つなど、近年医薬品での話題で注目を集めている。化学フィルム中心から脱却し、情報ソリューション事業などの新たな事業分野で高い収益性を誇る。

ゼネラル・エレクトリック
 1970年代に「利益なき競争」を食い止めるため、収益性のない事業売却を促進。80年代には、CEOのジャック・ウェルチが業界で1位か2位の事業への集中を宣言。現在は風力による電力発電事業、超音波医療診断機器など、新たな事業領域を拡大している。

IBM
 1990年代まで大型コンピューターの世界的企業だったが、PCの小型化の波でITソリューション事業へ転換。現在ではITシステムの運用管理を含めたインテグレーター、企業向け情報分析コンサルティングの分野でも成長を続けている。

 飛躍を続ける3社は、時代の転換点で「過去の事業ドメインと決別」しています。信長が天下を狙うため、慣れ親しんだ故郷の那古野城を家臣と共に離れたようにです。

 さらに信長は、豊臣秀吉など百姓出身でも功績で抜擢し、代々の織田家臣団に比肩する地位を与えました。肩書ではなく実力と戦果で人事が決まることを集団に徹底させて、ベテランの家臣も健全な競争意識の中に巻き込む効果を狙ったのです。信長は、天下を獲るため過去と離れ続け、時代の中心地に拠点を移動し、競争意識の高い優れた戦闘集団をつくり上げたのです。

(第8回に続く 4/11公開予定です)