「なんだ、そんなことか!」と拍子抜けしただろうか。あるいは、「そんなことわかっていた」という優秀な方もいるだろう。いずれにしろ、実はここにファイナンスの考え方の真髄が詰まっていると言っても過言ではない。少しずつ解きほぐしていくことにしよう。

まず、ファイナンスはコスト・アプローチとまったく逆の考え方をする。つまり、「銀座の地価が高いから、コーヒーが高い」ではなく、「銀座ではコーヒーが高いから、地価が高くなる」というように、因果関係が真逆なのだ。

オークションは確実に損する

では、なぜ銀座ではコーヒーの値段を高くしても売れるのだろうか?

銀座でコーヒーが高くても売れるのは、高い値段でも商品を買う顧客がいるからだ。では、なぜ銀座にはそういう人が集まるのだろうか? 東京駅からのアクセスのよさ、立ち並ぶ高級ブランド店や大手デパートや、高級レストランやおしゃれなカフェなど、銀座が人を集める要素は数多くある。

ただ、このような銀座という街のインフラだけが集客力の源泉かというと、それだけではない。もし街のインフラだけがカギなのだとすれば、東京駅から同じ距離にある茅場町や八丁堀に、銀座よりもお金をかけた商業施設をつくればいいだろう。しかし、どれだけお金をかけても、銀座のような街を人為的につくることはなかなか難しい。

では、集客力の源泉は何かといえば、それは銀座が持つ歴史や、この街が醸し出す雰囲気――ひと言でいえばブランドだ。ブランド力が銀座に人を集め、高い買い物をさせる原動力となっているのである。

次回はこの「ブランド価値」というものの本質に迫っていくことにしよう。