日頃、どうやって「損得」を判断しているだろうか? ほとんどの人は「価格」を比較してしまう。しかし実のところ、「モノの値段」ほどあてにならないものはない。本当の値打ちを見抜き、正しい「選択」をするためには、ファイナンス的な思考が欠かせない。
年間500件以上の企業価値評価を手がけるファイナンスのプロ・野口真人氏の新著『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』は、あらゆる「選択」に役立つ「4つのノーベル賞理論」が学べる一冊だ。
今回は「価格」にダマされないためのファイナンス的な発想の基本についてお伝えする。我々の価値判断は、どんな考え方にとらわれているのだろうか? 最新刊『あれか、これか』のなかから紹介していこう。
4つのノーベル賞理論に「価値の見抜き方」を学ぶ
前回はファイナンス理論が「選択」ないし「価値判断」の力を養ううえで有用であるということをお伝えした。実際、その価値は世界的に認められており、ファイナンスの主要理論は、ことごとくノーベル経済学賞を受賞している。
とはいえ、ノーベル賞と聞いて身がまえる必要はない。自然科学におけるノーベル賞理論と違って、ファイナンスの考え方というのはきわめてシンプルだし、実用的な投資理論として世界中のプロフェッショナルたちに活用されているからだ。
不思議なことに、ほとんどのファイナンスの入門書は、これらの理論については深く説明していない。その理由の1つはおそらく、数式が多用されるこれら理論をわかりやすく説明するのが難しいことにある。
しかし、どれほど複雑な数式の見かけをしていても、そのベールの下に隠れているのは、お金に関するシンプルな真理である。人々が日常的・経験的になんとなく理解していることを、理論化してえぐり出してみせたのがファイナンスの知恵だと言ってもいい。
本連載および僕の最新刊『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』では、そのシンプルな本質だけをお伝えするため、実務家にしか関わりがないディテールは徹底的にそぎ落としているのでご安心いただきたい。
ファイナンスの世界の常識は「世間の非常識」である。これを学べば、自分たちのふだんの価値観がいかに現金に歪められているかに気づくはずだ。難しく感じたところは飛ばしながらでもいいので、まずはそうした「目からウロコ」の体験を楽しんでいただきたい。
ではさっそく、ファイナンス理論の冒険に出かけよう! まずはこんな例題から。