解決したはずの事件が、にわかに動き出した。
2008年に世間を騒がせた事故米の不正転売事件で、農林水産省が7月、新たに3000トンもの事故米が不正に売られていた実態を突き止め、事故米の仲介業者など4社(図参照)を刑事告発するという急展開を見せているのだ。
一見、農水省のお手柄のようだが、告発に合わせて農水省が下したある処分をめぐって、関係者の不満が噴出している。
事故米とは、カビが生えるなどして食用には適さなくなったコメのこと。新たに不正が判明した事故米は、日本が一定量の輸入を義務づけられているミニマムアクセス米として、商社が03~08年に買い入れた約5000トンの中から見つかった。
その中で今回告発の対象になったのは、大手商社の豊田通商(豊通)が07年に輸入した82トン分。同社はこれを、飼料用として適正に、甘糟損害貨物に販売していた。
それが、石田物産、共伸商事へと転売されていく過程で、食用米へと化け、複数の食品加工業者に売られたとされる。価格は3倍程度につり上げられていたという。
事故米が社会問題化した08年当時、農水省は商社が輸入した事故米の流通実態を調べ、計5251トンについて、「飼料用として使用されたことを確認した」と、偽装なしの太鼓判を押していた。ところが、その6割に上る3155トン分について、このほど協和精麦が偽装を認めたのである。農水省の実態調査では、この不正をまったく見抜けなかったわけだ。
そんな杜撰な調査しかできなかった農水省が、今回の刑事告発に当たって、輸入元の豊通に、「飼料用として適正に処理されたかの確認を怠った」として、輸入米などの入札への指名停止3ヵ月の処分を下したのだ。
ただ、豊通は販売先の加工台帳で飼料用として処理されたことを確認している。しかし、その台帳自体が偽装されており、農水省も08年の調査ではそれを見抜けなかった。
処分について、農水省食糧貿易課は「書類を確認すればいいというわけではなく、たとえば、加工する現場で直接確認するなどの措置も必要」との見解を示している。
これに対し、事故米の販売に携わってきた業界関係者は「いちいち現場まで行って確認していたら仕事にならない。農水省が責任逃れのために、豊通を犠牲にした感が否めない」と不信感を露にする。
協和精麦が偽装を認めた約3000トンの事故米は、豊通のほか、双日、伊藤忠商事などの大手商社が輸入元になっている。農水省は、これらの商社についても、調査を実施しており、確認を怠っていたことが判明した場合、豊通と同様の処分を行う方針だという。
偽装を見抜けなかった点では、農水省も同罪だ。まずは自らの失態を処すべきだろう。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 山口圭介)