8月11日、円の対ドルレートは一時、1995年7月以来となる84円70銭台を付けた。輸出企業中心に業績悪化が懸念されるが、2010年度は増益を確保する。しかし、日本企業の海外生産拡大は加速し、企業収益の鈍化は所得を減らす。政策当局に円高を転換させる有効な手段はなく、景気減速を甘受するしかない。
日本銀行は8月10日の政策決定会合で政策金利据え置きを決めた。一方、円の対ドルレートが85円を割り込んだ翌日の8月12日には、「為替市場や株式市場では大きな動きが見られる。今後の動きを注視していく」と白川方明総裁は談話を発表した。
「円高を警戒する総裁談話を発表するのに、具体的な動きはない。いつものことだが、日銀は動きが遅い」と発言に行動が伴わないことにいらだつ市場関係者は少なくない。
その後、円の対ドルレートは85円前後、対ユーロレートも110円前後で推移し、円高は一服している。
しかし、企業の平均的な今期の当初想定レートは対ドルで90円、対ユーロで120~125円前後だ。「多くの企業にとって現在の為替水準は想定していなかった円高方向のレート」(海津政信・野村證券金融経済研究所チーフリサーチオフィサー)である。この水準で今後も推移するとなると、業績の足を確実に引っ張る。
ただし、増益基調は崩れない。
2009年度は、前年のリーマンショックにコスト削減で対応、企業業績は回復したものの、その水準は低かった。10年度は外需主導で売り上げが増加する一方でコスト抑制が継続されているため、大幅な増益が見込まれている。
6月に発表された大和総研が集計する主要事業会社300社の10年度の経常利益合計額は、前年度比4割強増加する見通しだ。増益幅が大きいため、現在の1ドル=85円程度の為替レートが定着しても10年度は増益を確保できる。
とはいえ、当然ながら業種ごとには、影響の濃淡がある。
輸出産業の代表格、自動車業界は、昨年度の下期(10~3月期)、「エコカー減税による販売増加や絞り過ぎた在庫の積み増しで業績が大きく伸長した」(高品佳正・大和証券キャピタル・マーケッツ金融証券研究所シニアアナリスト)ために、今年度の下期は前年同期比で減益と見られていた。現在の為替レートが続けば、減益幅が大きくなる。大和総研の前提に従って試算すると、下期の経常利益の前年同期比の減少幅は11.7%から25.7%へと拡大する。