新店長はいきなりではなく
徐々に自分色を出したほうがいい

【中原】アルバイトさんの採用で気をつけていることはありますか?

【A店長】店としては固定時間で入ってくれたり、曜日が決まっているほうがありがたいですが、学生さんをそれで縛ってしまうと辞めてしまいます。あとはやはり友達を紹介してもらうということですね。

【中原】今回の調査でも、「人づて採用」は有効だという結果が出ているんです。でも一方で、学生さんは一人辞めると、ほかの子も立て続けに辞めてしまう傾向があるという話を聞いたことがあるんですが。

【A店長】一人辞めてほかの人に「しわ寄せ」が行くという状況になると、そうなるかもしれませんね。

【B店長】ただ、やっぱり友人紹介での採用が離職率も低いですし、有効だと思いますね。やたらめったら人を紹介してもらうというわけではなく、店長目線で「この人の紹介なら大丈夫だろう」と、ある程度信頼のおける子に紹介してもらうのがいいですね。逆に、「できれば早く辞めてほしいな」と思っているアルバイトさんに限って、「友人を紹介したいんですが」なんて言ってきたりして、正直困ることもあります(笑)。

【A店長】あとは「店長が変わったので辞めます」という人もいますから、まずはそこを引き留めるところから始まり、あとは店の雰囲気や店舗のレベルをしっかり確認してから自分なりのやり方を浸透させていこうと思っていました。
ですから、まず店にいるアルバイトさんをよく観察して、ある程度理解してから新しい人を採用しています。

【C店長】私もそうですね。少人数だからこそ、一人ひとりのことをよく知っていかないと回らなくなってしまいます。私の会社では採用の判断も本社がやるので、店長が勝手に募集をかけることはできませんが、なるべく友人紹介などをうまく使うようにしていますね。

【A店長】店長が変わると店の雰囲気も変わりますから、前の店長に採用されたアルバイトさんが「前の店長はこうだったのに」という不満を抱きやすいんです。その結果、「合わないので辞めます」みたいなこともありますよね。

【中原】それは一定の確率で起こっちゃうんでしょうね。

【C店長】そうですね、あると思います。ですから、まず自分の考えを伝えてみて、その子が受け入れてくれるかどうかが大事なのかな。

【B店長】私は最初はなるべく前任者のやり方に合わせるようにしています。そのあと、徐々に徐々に自分のやり方を入れていく感じですね。

【C店長】最初から自分の考えを押しつけちゃうと、大変なことになりますよね。まずはリーダー格の人やベテランの主婦の方に話を聞いて、「ああ、こうやってたんだ、そこはそれでいいね」と認めながら、「これどうかな?」「こうやったらよくなるんじゃないかな?」と徐々にやっていくほうが、のちのち自分の色になっていきやすいですね。ですから、自分の色を出すまでには時間がかかります。1ヵ月じゃ終わらない。せめて2~3ヵ月経たないと変わらない。

【A店長】逆に、私は「着任1ヵ月以内には自分のカラーを出す」というようにしていますね。そうしないと自分が「食われちゃう」ので(笑)。

【中原】店長でも「食われちゃう」んですね。

【A店長】大学生は3年くらいになるとゼミが始まったり就活に入ったりしますから、それまでの1~2年しか働けないので、そう考えるととにかく早い段階から勝負を打っていく必要があります。学生さんが働ける時間は正味1年。その1年で限りなく輝いていただくには、遅くとも3ヵ月くらいで戦力になってもらわないと厳しい。最初の1ヵ月はシステムや人になじむ期間で、そのあとから徐々にスキルアップしてもらうというイメージです。

(第2回に続く)

聞き手:中原淳(なかはら・じゅん)
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授。東京大学大学院 学際情報学府(兼任)。東京大学教養学部 学際情報科学科(兼任)。大阪大学博士(人間科学)。
1975年北海道旭川生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て、2006年より現職。
「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、リーダーシップ開発について研究している。専門は経営学習論。
著書に、『会社の中はジレンマだらけ』(光文社新書)、『アクティブトランジション』(三省堂)、『職場学習論』(東京大学出版会)、『企業内人材育成入門』『研修開発入門』『ダイアローグ 対話する組織』(以上、ダイヤモンド社)など多数。