「勝ち負け」と「損得」
どちらにこだわる企業が危ないか

 次のキーワードは「勝ち負けモード」である。

 不祥事を起こしやすい「危険な企業」を見分ける簡便法として、私は組織の意思決定や言動のモードがどの程度「勝ち負け」にこだわるか、を見ることにしている。その他のモードとしては「損得モード」「善悪モード」「好き嫌いモード」などがある。

「損得モード」と聞くと、悪いことのように思われるかもしれないが、きちんと損得計算ができるということはビジネスの基本である。顧客のため、株主のためになるのか、期待値をもとに合理的に判断するということであり、実は商業道徳に忠実なやり方だ。こういう「損徳モード」の組織が、競合との熾烈なシェア争い、部門ごとの派閥抗争、実力者のメンツの張り合いなどをきっかけに、「勝ち負けモード」にシフトすることがある。こうなると、一気に不祥事が起きやすくなる。

「儲けよう」という気持ちから「負かしてやろう」という気持ちになると、損得を無視して「相手に勝つためなら何でもあり」の状態になってしまうからだ。そして、相手が「憎むべき対象」に転化する。

 そうなると、勝つためには、不正な受注もするし、下請けに無理なコストダウンも要求する。嫌がらせ(不正競争)もすれば、スキャンダルをリークすることもあるだろう。一度組織に“相手憎し”の感情が定着してしまうと、一般社会における悪事も、組織内においては良いことと正当化されてしまうから、もう誰にも止められない。こういう“熱い状態”になってしまうと、内部者ではなく、社外取締役などが冷静に「損得モード」からの質問を投げかけ、場合によっては提言を行い、組織の暴走を止めなくてはならない。(*1)

(*1) 商業における価値判断基準と、戦闘状況におけるそれとの違いについては、ジェイン ジェイコブス『市場の倫理 統治の倫理』(日経ビジネス人文庫)に詳しい。