ユニ・チャームの社長に就任以来、海外市場の開拓をテコに約15年間で売上高を約3倍に伸ばした高原豪久社長。急成長を支える人材育成の秘密に興味が湧きますが、意外にも「人は育てられない、勝手に育つもの」というのが持論で、育ちたいと願う人がみずから成長できる環境や仕組みづくりに注力されています。その一貫として日ごろ社内で徹底してほしいと思われている行動原則について、著書『ユニ・チャーム式 自分を成長させる技術』から一部を紹介していきます。
成果は“狙って取る”からこそ意義があります。
組織にせよ個人にせよ、業績は計画力と実行力の掛け算で決まります。
正しい課題を発見し、正しい戦略を立案する「計画力」と、計画を正しく実行し、正しく効果検証し、正しく軌道修正して、目標を完遂する「実行力」の両方を備えていなければ、十分な業績を上げることはできません。
業績はただガムシャラに頑張っても上がりませんよね。また“棚からばた餅”のような幸運に巡り会って業績があがったとしても、継続的に数字を残せるわけではありません。
そのため私は社長就任以来、「自分が実行する計画は自分で立てること」「立案した計画は自分で実行すること」を全社員に徹底してきました。
当初、物足りなさを感じたのは計画力でした。計画力は、一朝一夕に身に付くものでもありません。
狙って取る「社長賞」に改革
そこで、計画力を強化するためのひとつの施策が社長賞の刷新でした。
ユニ・チャームには昔から社長賞という制度がありましたが、形骸化しており、社員の成長意欲を刺激するものではなくなっていました。刷新後の当社の「社長賞」は単なる表彰制度やモチベーション刺激策ではなく、成長を加速させるカギと言えるほど重要なものになっています。
かつての社長賞は、私も1996年当時の台湾のメンバーとともに団体貢献賞として受賞しています。そのときもらった賞金は、ボロボロになっていた工場の社員食堂のパイプ椅子を買い換える費用に充てました。
新しく購入したごく普通のパイプ椅子をみんな誇らしげに眺め、お互い譲り合って誰も座ろうとしなかったことを覚えています(結局、私が最初に座らせてもらいました)。この受賞を機に、メンバーの結束が一段と強まったことは言うまでもありません。
こうした体験を持つからこそ、社長賞の刷新に取り組んだのです。具体的には、社長賞が社員一人ひとりにとって能力を高められるだけの学習機会となるよう変革しました。
まず「事前にテーマを設定し、狙って取る賞」に変えました。好業績を残し、その結果として後付けで応募のエントリーシートを書くのではなく、最初から「これが達成できたら受賞間違いなし」というテーマを設定して応募させ、その達成度合いを競い合う賞に変えたわけです。
言わば、有言実行を目指させるやり方で、そこには運が入り込む余地はありません。この点が大切なところです。
つまり、社員には社長賞を取るには「テーマこそがすべて」だと教えています。そのチームや個人が1年間を通して取り組むテーマが、社長賞を受賞するに値する高い難易度をもつかどうか、さらに全社方針や部門戦略と合致し、取り組む過程を通じて全社に横展開可能な“筋のよい”テーマになっているかどうかということです。
刷新以降、社長賞の盛り上がり方が変わってきました。テーマの設定段階で、熱のこもった議論が各チームでなされるようになり、当然、計画力も目に見えて向上してきました。
私も、社長賞運営事務局と半年前から毎月1回程度、開会1か月前からは毎週のように打ち合わせを行って、詳細まで私の思いを反映した賞となるようにしています。