ノーベル賞学者2人と偶然の遭遇!!
そのとき楠木氏は……?

【楠木】僕ね、実は『あれか、これか』に登場する人の中で、マイロン・ショールズとロバート・マートンに会ったことあるんですよ。

【編集部註】
▼マイロン・ショールズ:1941年生の経済学者。スタンフォード大学教授。フィッシャー・ブラックと完成させたデリバティブの理論価格を決定する「ブラック・ショールズ式」でノーベル経済学賞を受賞。
▼ロバート・マートン:1944年生まれの経済学者。「ブラック・ショールズ式」に厳密な証明を与え、ショールズとともにノーベル経済学賞を受賞。

【野口】おお、そうなんですか!

【楠木】去年、東京国際フォーラムでファイナンスのシンポジウムがあって、たまたま僕がスピーカーとして出ることになったんです。会場にちょっと早めに着いたら、主催団体の方が「せっかくですので、今日の登壇者とディスカッションしていてください」とおっしゃって。「この部屋へどうぞ」って通されたら、ショールズとマートンがいるんですよ。「おお、ノーベル賞経済学者が2人いる!」って思って。しかもその2人しかいない(笑)。

【野口】それはびっくりですね(笑)。

【楠木】だけど僕の専門はファイナンスでも経済学でもないから、何も話すことがないわけです。すると、お二方が「君の専門は何なんだ?」って声をかけてくれたんですよね。僕が「マネジメントです」と答えたら、さらに「最近はどんなことを考えているんだ?」と聞いてくださった。そこで、「競争の中での企業のパフォーマンスについて、事例を観察しながら、こういうロジックを組み立てています」というような説明をしました。

【野口】なかなかそんな機会はないですよね。

【楠木】ええ、二人とも穏やかなおじいちゃまでした。が、僕の説明を聞いても「ほう……面白いねえ、君らの世界は」というような感じで、天空から俗世界を見るような目(笑)。すごく話しやすい人たちでしたけど、やっぱり科学者なんですね。フィナンシャル・サイエンティスト。

「FX投資家」は本当にカネの亡者なのか?

野口真人(のぐち・まひと)
プルータス・コンサルティング代表取締役社長/
企業価値評価のスペシャリスト
1984年、京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1989年、JPモルガン・チェース銀行を経て、ゴールドマン・サックス証券の外国為替部部長に就任。「ユーロマネー」誌の顧客投票において3年連続「最優秀デリバティブセールス」に選ばれる。
2004年、企業価値評価の専門機関であるプルータス・コンサルティングを設立。年間500件以上の評価を手がける日本最大の企業価値評価機関に育てる。これまでの評価実績件数は2500件以上。また、グロービス経営大学院などで10年以上にわたり「ファイナンス基礎」講座の教鞭をとる。
著書に『お金はサルを進化させたか』『パンダをいくらで買いますか?』(日経BP社)、『ストック・オプション会計と評価の実務』(共著、税務研究会出版局)など。

【野口】「投資の話をしてください」という講演依頼をいただくことがよくあるんです。「どんな話がいいですか?」と聞くと、ほとんどの場合「FXの話をお願いします」と言われるんですよ。FXはみんながやっているからと。仕事中もできるし、市場も24時間開いている。理論的にはもう完全市場に近い。

【楠木】近いですね。

【野口】取引コストはゼロで、24時間いつでも、どんな量でもできる。理想の市場のように思えますが、違います。市場って基本的に出し抜けないんです。だから必ずいつかは損をする。長期的に見れば負けるようにできているんです。
僕が以前、ゴールドマン・サックスなどにいたときには、「伝説の為替トレーダーがいる」という話をよく聞きました。でも一度もそういう人に会ったことはありません。

【楠木】なるほど、売買の技術が伝説なのではなくて、存在自体が伝説なんですね(笑)。

【野口】そうです。だいたいそういうトレーダーの伝説のパターンは決まっていて。ある年、ものすごく儲けるわけですね。その実績がすごいから、翌年、別の会社から引き抜かれるんです、破格の待遇で。「破格の待遇」とは、給料ももちろんそうですが、それとともに、より大きな「リスクの許容量」が与えられるんです。前の会社よりも大きな取引をしてよいと。するとその「伝説のトレーダー」は、そこで決まって大損をする。より大きなリスクをとっているから、本当にひどい負け方をする。
もちろん、FX投資家が10万人いたとしたら、ある年は半分の5万人が儲けて、次の年はそのうちの2万5000人が儲けると考えると、勝ちが10年続いている人も必ず何人かはいます。でもほとんどは、みんな勝ったり負けたりなんですよね。市場は出し抜けない。