若者支援vs高齢者支援で
予算の奪い合いが勃発

なかむら・あつひこ
1972年、東京都生まれ。アダルト業界の実態を描いた『名前のない女たち』(宝島社)、『職業としてのAV女優』(幻冬舎新書)、『日本の風俗嬢』(新潮新書)など著書多数。フリーライターとして執筆を続けるかたわら介護事業に進出し、デイサービス事業所の代表を務めた経験をもとにした『崩壊する介護現場』(ベスト新書)が話題に。近著に『ルポ 中年童貞』(幻冬舎新書)、『女子大生風俗嬢 若者貧困大国・日本のリアル』(朝日新書)など。最新作『図解日本の性風俗』(メディアックス)では、日本経済と風俗との関係を丁寧に解説している。

中村 貧困どころか奨学金制度によって数百万円の負債を背負っている大学生たちを見ると、もはや風俗で働いて稼いでいる子は問題がない。将来が制限される負債を背負うより、カラダを売った方がいいでしょう。その若者のためを思って「水商売か風俗やれば?」みたいな助言するケースもある。なにか、異常な社会になってしまいましたね。

藤田 貧困問題は、自身の持っている資源を最大限に利用しないと生きられないことを意味しますから、当然、そういうケースもあるでしょうね。それと貧困問題の悪いところは、足の引っ張り合い。僕が『下流老人』を出して、予算が3600億円通って、3万円ずつ高齢者に金銭を配る政策が始まりましたが、若者や子どもを支援する人たちから「高齢者福祉よりも子どもの方が重要だ」というのはよく言われました。取り組む人たちの中で予算の取り合いが始まっていますね。

中村 国は本当にお金がなさそう。限られた予算の中で子どもと高齢者の選択を迫られたら、子どもを選ぶのが一般的でしょうね。

藤田 いやいや、そうではなくて結局、給付は全員に必要なのです。海外だと中間層以下の人たちは、住宅手当を受けている。必要な人に分配し、それにはどのぐらい税が必要なのか考えるんです。しかし、今の日本は、「税がこれぐらいだから必要な人にもこれぐらいしか配れない」という状態。僕はこの論理を逆転させたい。必要なものは必要なんですよ。

中村 結局、国が本気で動かないと貧困は深刻化の一途ということなんですね。普通の女の子がカラダを売るという現実は、かなり黄信号まで来ていますよ。

藤田 なので、僕は少しずつ政府の社会保障審議会に入ったり、税や社会保障の仕組みを変えたいと思っています。本人が選択することのできる社会システムにしたいですね。

ふじた・たかのり
1982年、茨城県生まれ。NPO法人『ほっとプラス』代表理事。聖学院大学人間福祉学部客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロ ジェクト共同代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(2013年度)。著書に『ひとりも殺させない』(堀之内出版)、『下流老人 一億総老後崩壊の 衝撃』(朝日新聞出版)、『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社)など。『下流老人』は2015年のユーキャン新語・流行語大賞のノ ミネート50語に選出。

中村 僕は2000年代後半に、なにも知らなくて介護事業を始めました。介護の世界は、やってみたら想像を絶する生き地獄みたいなところで(苦笑)。当事者として、労働集約型産業の長時間労働はいちばんマズいと感じました。本当に人が次々と壊れていく。

藤田 長時間労働は介護・保育にかかわらず、全体的に日本に広がっています。うちでは最近、労働相談も受けていて、介護・保育の領域からはもちろん、飲食やIT関係からの相談もあります。生活困窮の根源は雇用。長時間労働でうつや不安神経症になって、みんなメンタルを患って相談にくる。それで、危機感を感じて『貧困世代』を書きました。若者の相談が増えて、生活保護を受給したり、精神障害で障害年金や労災をもらったり。このままでは社会はもたないだろうと誰もが思うでしょう。特に介護業界は疲弊しています。

中村 介護保険制度がスタートして以降の介護業界はボロボロで、介護職員は本当に使い捨てです。さらに深刻なのが、続々と人を壊している、自分の利益にしか興味がないブラック経営者が「社会起業家」を名乗ってメディアに出たり、行政に入り込んで次々と業界団体を立ち上げたり、適当な美辞麗句を言いまくって、実態を知らない市民から尊敬を集めたりしている。藤田さんのような有名人には、名誉欲にまみれたそういう連中が続々と近づいているはずですよ。

藤田 最近、それをすごく感じます(笑)。目立っている人は悪いことをやっていることもあるんだな、と。新自由主義的というか、儲かるために介護・保育業界に入って、結局、労働をダンピングして事業展開を拡げていく。表面だけを見ると社会的起業の新しさに素晴らしさを感じますが、裏側で労働者を酷使して成り立つ構造もあるのです。介護は、本当に焼け野原です。中村さんの問題意識は、とても痛感します。

中村 昨年の介護報酬の大幅削減を見ていると、もう国は介護職員に普通の生活をさせる気はないみたいだし、将来は暗いですよ。若い人はみんな介護を辞めるのがいいでしょう。社会や高齢者より、自分が大切ですよ。