ゼロイチに着手するときは、まず「制約条件」を明確にする

 だから、僕は、新しい仕事を与えられたときは、必ず、制約条件を明らかにすることから着手するようにしています。

 特に、ゼロイチの場合は、これが必須。ゼロイチには前例がありませんから、一見、自由に見えます。あらゆる可能性があるように見えるのです。しかし、その結果、アイデアの方向性が定まらず、プロジェクトが迷走しがちだからです。

 Pepperの最初期に、そんな状態に陥ってしまったことがあります。
孫正義社長から与えられた「人と心を通わせる人型ロボットを普及させる」というミッションは、きわめて魅力的なものですから、アイデア出しにも熱がこもります。関係者からは、次から次へとアイデアが寄せられました。しかし、あまりにも壮大なミッションであるがゆえに、収拾がつかなくなったのです。

「人と心を通わせる」という部分に注目すると、「話し相手になるロボット」「感情のやりとりができるロボット」「日ごろのコミュニケーションから学習して、成長していくロボット」といったアイデアが出てきますし、「普及させる」という部分に注目すると、「家事を手伝うロボット」「冷蔵庫からビールをもってくるロボット」「留守中に警備してくれるロボット」など、売りやすいロボットにするためのアイデアが出てきます。

 それぞれ魅力的なアイデアではあるのですが、それらを集約すると「鉄腕アトムのようなロボット」になってしまう。つまり、現時点では実現可能性のない「夢のような企画」にしかならないのです。